ウォーターフォール画廊はマンハッタンの東80丁目の高級住宅街の中にある。
もともとキャリッジハウスで馬車を収納するスペースが一階にあった個人宅だ。五階建ての内部空間は白壁の現代的な内装に一新され、一階奥の吹き抜け空間に流れる高さ6メートルの滝がすがすがしい。昨年9月の日韓友好現代アート展を見て以来、商業画廊にしては雰囲気のありすぎる環境で、どういう理念の運営なのか興味があったが、夏季グループ展の初日のVIP内覧に訪れて偶然にオーナーの話を聞く機会を得た。
画廊主は韓国系のケート・シン。略歴を見ると延世大学とコロンビア大学で経営学と不動産の修士号を取得し、高いデザイン性と投資性を兼ね備えた不動産を専門としてきた。
画廊のあるウォーターフォール・マンション(滝の館)はシンのリノベーション・プロジェクト第一号。NYで活躍する森俊子が設計を担当した。親子二代にわたる服地デザイナーの仕事場として使われていたという歴史にインスピレーションを得てアート施設への転換を企図。建築基準では住宅地区だが、市当局を説得して商業画廊の開設にこぎつけた、という。さすがに本業だけのことはある。
ホームページには、国際美術界のトップ1%のコレクターや関係者をターゲットにして21世紀の画廊をめざす、とある。野心的でスケールの大きいヴィジョンだ。
3つのC(クリエート、キューレート、コネクト)を唱えるオーナーが積極的に企画のイニシアチブをとり、商業画廊のメカニズムを使いながら、非営利団体に特徴的な協賛(例―美術館的に国連や大使館の協賛を得る)や作家のサポート(例―レジデンス的に作品制作をコミッションし展示空間にあわせた現場制作をしてもらう)をとりこみ、不動産のハイソなクライアント層とのネットワークを足場に、ファッションやデパート、財務などの産業ともコラボを企画していく。そんな運営形態が話を聞いて浮かび上がってきた。
財界人や起業家が古典や近現代美術を集めるなど、コレクションを中心としてアートと関わる形は古くからあった。しかしながら、シンのように、コンテンポラリー・アートに正面から取り組み、アクティビズム(現場行動主義)でアート界そのものへ切り込んでいく発想とフットワークの軽さは、ダイナミックな個性による運営の妙味だとも言える。
華麗なアウラの一方で、本展にも出品のハン・ヨンスを紹介するなど、埋もれた過去への眼差しも深い。朝鮮戦争後のソウル風景で知られる写真家だが、ICP(国際写真センター)に収蔵され、ニュージャージーのマナ・コンテンポラリーでの個展を来春の予定で協働中だ。
将来的にはアートを知らない若者層へもコネクトしたい、と考えるシンは「人々のためになることをアートでしたい」と願う。その心意気に魅せられたNY在住のキュレーター、佐藤恭子が日本との架け橋になっていることを最後に一言しておきたい。
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