鍛金について
私は東京藝術大学の工芸科に入学し、鍛金という表現技法を勉強しました。皆さんは鍛金という分野をご存じでしょうか。鍛金は銅板などの板材、鉄などの棒材を金鎚で打って造形する工芸の一分野です。
立体物を造形するとき、大きく分けると2つの方法があります。塊から削り出すカービングと、粘土のようなものを盛付けていくモデリングです。ところが、鍛金は第3の方法として、素材を変形させ造形を行っていきます。平らな板を打ち、ボール状に造形したり、棒材を曲げたり、捻じったり、打ってだんだんと細くしたり、逆にふくらましたり……。硬い金属を金鎚で打つことで、このような不思議な変形がおこるということはなかなか想像がつきにくいかと思います。金鎚で銅板などを打ってボール状に変形加工する技術を“絞り”と呼びますが、自分で複雑に絞った作品を私が見ても、これがもともと平らな板だったことが信じられない気分になることがあります。
これらの変形加工は、現在の生活の中でも、自動車から、ご自宅の台所にある食器や調理器具など、さまざまなプレス加工された製品の中で見ることが出来ます。これらがもともと平らな板だったり、まっすぐな棒だったりするのです。
ここまで読んでいただいた方の中には、何のことやらとお思いの方が多くいらっしゃるかと思いますが、10年以上もこの作業をしている私も不思議なことが起こるものだなぁと思いながら、今日も金鎚を振るうのでした。
三神慎一朗 (みかみ・しんいちろう)
鍛金作家・東京藝術大学助教。1977年埼玉県生まれ。2015年、「第54回日本現代工芸美術展」で現代工芸新人賞を受賞。9月28日(水)〜10月4日(火)、池袋西武で個展を開催。また10月27日(木)〜11月6日(日)の藝大in銀茶会2016(銀座・伊東屋 HandShake Lounge)にも参加する。
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