村上 哲(熊本県立美術館学芸課長):未曽有の災禍から再開へ

2016年10月17日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

3カ月後「ランス美術館展」を奇跡的に実現――

 

この春、熊本を襲った2度にわたる震度7の恐怖。連夜の激震に脅えた一連の地震は、わが国にとって阪神・淡路大震災や東日本大震災とも異なる未曽有のものであった。

 

熊本県立美術館は、世界中にその惨状が伝えられた熊本城を望む公園にある。壮麗さを誇った石垣は無残に崩落して道路が寸断され、美術館へのアクセスもままならない。開館40周年の記念事業として開催していた大規模なコレクション展は、無念にも中止に追い込まれた。

 

 

熊本県立美術館は、熊本城の二の丸公園の一角に位置する

 

とはいえ美術館の建屋は強靭で大きな被害は免れ、前震ののち速やかに保全措置を施したことで展示品の被害も最小限に喰い止められた。収蔵庫の作品に被害は出たが、展示公開の機能が失われていない限り、我々のなすべきミッションは速やかに美術館を再開することであった。打ち続く余震のなか準備を進め、地震発生から1カ月半後の5月末に再開館した。その一方で損傷した作品の修復に取り組み、地域にある美術品や文化財の救援事業にも携っている。

 

こうような状況のなか、開館40周年を記念する海外展として4年前から企画準備をしていた「ランス美術館展」の開催に向けて全力を注いだ。東日本大震災では多くの海外展が中止となったこともあり、開催が危ぶまれるなかランス美術館に書簡や写真を送り、展覧会の開催が可能であることを伝えた。フランス側は当館の現況や余震の推移を冷静に判断し、開催を決断してくれたのであった。本震から3カ月後に海外の美術館展を実現できたことは奇跡的であり、ランス美術館とランス市に対して衷心より感謝を捧げたい。

 

9月4日まで開催された「ランス美術館展」にて

 

来館したランス美術館のドゥロ館長は、「文化や友好の絆は、人類を襲う厄災よりも強いはず」と被災地に心を寄せてくれた。フランス革命期に産声をあげたランス美術館は、度重なる戦禍から復興してきた歴史がある。困難を克服してきた美術館が震災からの再生を支えてくれることに、運命的ともいえる縁を感じた忘れられない夏となった。

(熊本県立美術館学芸課長)

 

【関連リンク】熊本県立美術館

 

【関連ページ】村上 哲:熊本地震と美術館

 


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