富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :10x10 Photobooks

2016年11月21日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

 

インターネットの時代である。何でもデジタル化されてオンラインで見ることができる。だが中にはデジタル化できないものもある。アートはその一つだ。絵画も彫刻もパフォーマンスも実見してみなければ分からない。

 

本もその一つ、と私は思っている。文字情報はデジタル化できるが、本の物質感は情報化できない。画集は絵画の疑似体験だと言ってしまえばそれまでだが、写真集となると話は根本的に違ってくる。なぜなら写真集は、単なる写真の集積ではなく、それ自体が表現の一形態だからだ。と同時に、モノとしてはコンパクトなので広範囲の流通に適しているから、ネット以前の情報化形態とも言えるだろう。

 

この二重性のおかげで日本の写真集は現在世界的な評価を集めており、印画したプリントよりも写真集を重視してきた日本的歴史背景も理解されるようになってきた。となると、それぞれの写真集の絶対的な流通量は限られているから、興味があってもなかなか見ることができない。また展覧会などではモニターを使って頁を繰ってみせる展示方法もあるが、それでも手にとってみることができない、という欲求不満が残る。

 

こういう状況にコレクターの立場から対応しているのが10x10 Photobooks というグループだ(www.10x10photobooks.org)。そもそもの出会いはフェイスブック。写真集のブログをしていたオルガ・ヤツケヴィッチとライターのラセット・レーダーマンという二人のコレクターが意気投合して自分達の大好きな写真集を同好の志にも手にとって見てもらおう、と手弁当で始めた。そして日本の写真集を数多く集めているICP(国際写真センター)の司書のマシュー・カーソンが合流して2012年に活動を開始した。

 

中心となるのはサロンとリーディング・ルーム。サロンはNY在住のコレクター宅や作家のスタジオで、写真集を作る写真家やキュレーターの話を聞く。不定期だが和気藹々としたホームパーティ形式で、電子メールで関係者に予告。たいがいは数時間、短いときには数十分で申込みが締切りとなる人気ぶりだ。あまり知られていない写真集を紹介するのを旨とするから、NYを訪問、一時滞在する作家にも積極的にアプローチする。

 

プライベートなサロンに対して、パブリックなのがリーディング・ルーム。10人のキュレーターにそれぞれ10冊の写真集を推薦してもらい(これが10×10のグループ名の由来)、こちらも機動的にブックフェアや写真フェアでポップアップ的に開催する。日本の写真集が第一弾。第二弾はアメリカの写真集でT.I.P (Tokyo Institute of Photography)に招待されて企画。それぞれカタログも出版した。第三弾はラテン・アメリカで展示出版ともに現在進行中。第四弾は未定とのこと。

 

展示の写真集は出版社や作家からの無料提供。すべて手にとって見ることができ、プロジェクト終了後にはそれぞれICPライブラリー、東京都写真美術館、ヒューストン美術館に寄贈される。

 

 

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