富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :アーカイブのデジタル化と公開

2016年12月05日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

 

日本でもアーカイブについての議論が盛んである。特に戦後美術や現代美術のように歴史的に近い時代のアーカイブをどう構築するのか。これは焦眉の課題だろう。

 

アメリカでは現代美術のアーカイブはすでに1954年からアーカイブズ・オブ・アメリカン・アートで始められていて、研究機関や大学、美術館のアーカイブも充実している。多くの場合、事前にアポイントメントを申し込めば、必ずしも研究者でなくても資料閲覧ができる公開のシステムも整っている。

 

アーカイブの本源の機能は、文書資料の集積保存にあるわけだが、ネットによる情報化の進んだ現在、公開の形も、該当機関を訪問しての現物閲覧から一歩も二歩もすすめて、デジタル公開が積極的に進められている。その動向のなかでニューヨーク近代美術館は1929年設立以来の展覧会アーカイブをオンラインで紹介する快挙に踏み切った。

 

ポータルとなるURLはmoma.org/history。展覧会題名や作家名、年代などで検索できるシステムだ。ちなみに戦後日本美術史の重要展「新しい日本の絵画彫刻」を検索すると、図録、出品リスト、プレスレリース、出品作家(ここから該当展以外の関連情報が検索可能)、展示風景(全28点)を見ることができる(https://goo.gl/RR62IA)。

 

 

特に素晴らしいのは出品リストのみならず、カタログも全頁をPDFとしてみることができることだろう。展示写真もパワーポイントの研究発表に使える程度の解像度は提供されている(無論、画像を出版するにはMoMAの許可が必要だ)。ちなみに1998年のポロック展で調べると、著作権の関係だろうと思われるが、カタログは中を見ることはできないが、関連シンポの論文集は中を見ることができる。オンラインで見る側はクリック一つで自在に頁をくれるが、これだけでもデジタル化の労力、時間、費用を考えると気の遠くなるような分量だ。アーカイブにあるはずの、企画書や出品先との交渉、展示のプランニングなど、もっと知りたければMoMAアーカイブに出かける必要が出てくる。専門家なら全部見せてほしいと言いたいだろうが、現実を考えれば、すべての資料をデジタル化できるわけではない。

 

こういう議論を始めると、誰のためのオンライン化なのか、ということを明確にする必要が出てくる。ネットの浸透度を考えると、興味を持った一般の人を対象にした啓蒙普及が目的となる。

 

比較して興味深いのがアーカイブズ・オブ・アメリカン・アートのイメージ・アンド・メディア・ギャラリーで、たとえばポロックで検索すると200点がデジタル化されていてオンラインでアクセスできるようになっている(goo.gl/Zkm0QU)。書簡はいうに及ばず、家族写真や展覧会風景、パトロン(ペギー・グッゲンハイム)からの電報やインタビューテープ(ドナルド・ジャッドのポロック観)など、多岐にわたる資料を見ることができる。

 

 

 

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