1919年に提案されてから、なんと100年近くの年月を経て、ニューヨーク地下鉄の二番街線が今年の元旦に開通した。といっても長さは14キロ足らず、今後南北に延長する予定でミニオープンだ。とはいうものの、3つの新駅と接続駅にはパブリック・アートが設置されて、美術愛好家のみならず一般市民も興味をもって訪れている。招待作家は、チャック・クロース、ヴィック・ムニーズ、サラ・ジー、ジーン・シンの4人(シン作品は未見)。
NY交通局の芸術プログラムについては10年前に一度書いているが、古色蒼然とした駅構内にアートを入れるのではなく、今回は新駅の建築に合わせた設置となっている。
新駅は二層構造で、下層がプラットフォームと線路、上層にはコンコースと南北の改札がある。駅の全長は3ブロックの長さで、上層はコンコースのオープンスペースがすがすがしい。この通路の壁面がメインの設置場所となる。
チャック・クロースはお馴染みの超大型写真リアリズム的肖像画。高さ2メートル半をこすモザイクの大作12点だが、そもそもクロースの絵画様式は、モデルの写真を碁盤の目に分解して、その升目一つ一つをモノクロやカラーで抽象画のようにカンバスの上に描いていく。だからモザイクには格好の表現だ。本人の自画像に加えて、ミュージシャンのルー・リードやアーティストのアレックス・カッツやカラ・ウォーカーなど、真に迫った表現に足を止める乗客も多い。
ごみアートで知られるヴィック・ムニーズは、意外にも本格的な人物表現の《完璧なる他者たち》を発表。人種の坩堝のニューヨークらしく、さまざまな人種、宗教、職業、ジェンダーの老若男女36人を描く。
スーパーマンのいでたちの男児、タイガーの着ぐるみを着た青年、書類が鞄から飛び出して往生するビジネスマン、サリーに身を包んだインド女性、トトロ風(?)の帽子をかぶった日本人らしき若者、などなど、モデルを観察する目は飄逸かつ精緻。それを独特の質感をもつガラスモザイクに翻案した具象性の強い創造力には、ちょっと驚いてしまう。
大小のオブジェを駆使したカオス的表現のサラ・ジーが、どんなパブリック・アートをするのか、興味津々だったが、インスタレーションの作家らしく、コンコースから改札をぬけてエレベータで地上へ出るまでの全壁面を使った陶板タイルによる《風景のためのブループリント》は、環境を作り出す、という点で出色だ。
コンコースの長い壁面は北斎の《冨嶽三十六景》の《駿州江尻》を意識して、紙片が風に舞う光景を青と白の二色で抽象画のように描き出す。が、うねりのある表現はむしろ《神奈川沖浪裏》のダイナミズムを思わせる。そして改札を出ると、足場や鳥、椅子、木の葉の断片をデジタルに集積させた画像がドローイング風にリリカルに展開する。NYタイムズの取材に答えて「タイルを一枚の紙のように使ってみたかった」というジーだが、これだけの空間を演出する力量には感服した。
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