少々旧聞になるが、さる4月28日に2つのアート・ウォークがあった。
一つは「マジソン街ギャラリー・ウォーク」で、ガゴーシアンやブラム&ポーの大画廊から、ボース・リーやL・パーカー・スティーブンソンなどアジアや写真を専門とする画廊まで、MoMAの北は57丁目からメトロポリタン美術館のある82丁目まで46画廊が参加した(詳細はgoo.gl/RryJDP) 。
マジソン街といえば、抽象表現主義が隆盛した1950年代に主要画廊のあった地区だが、アップタウンの気取った雰囲気を厭い、ソーホーに大移動が起こる。その後、多くの画廊がチェルシーへ集中し、画廊歩きといえばチェルシーという時代もしばらく続いていた。
ここ数年はチェルシーの新装、改築や新築が進むと同時に、同地区からの離脱も進行。シックでハイソなマジソン街へ向かうベクトルがあり、一方で不動産が比較的安価なロワーイーストサイドへは小規模な若手や実験的な画廊を中心に、ペロタンなどの大画廊も過剰な商業主義を逃れて移ってきている(地図は downtowngallerymap.com)。
その中でソーホーはファッションや化粧品、高級家具などの店が軒を連ねて、一時の面影はない。しかしながら、画廊はなくなったものの、アートがなくなったわけではない。いわば歴史発掘的な面白さは確実に残っている。
そのソーホーが4月28日の2つ目のアート・ウォークだった。久しぶりにソーホーを歩こうと、「ダウンタウン・カルチャー・ウォーク」の参加施設をいくつか訪れた。
ミニマル・アートやアースワークスを積極的に財政支援したDIA財団の《ブロークン・キロメーター》と《NYアース・ルーム》は、ウォルター・デ・マリアの長期設置作品で写真撮影禁止。両作品とも伝説的物量作戦だけに、現場で作品を見る経験は格別だ。ピカピカに磨き上げた真鍮棒が500本並べられた前に立つと、一種の瞑想状態が現出する。
歴史遺産としては、ミニマル作家の故ドナルド・ジャッドの住居とアトリエを公開するジャッド財団が白眉。ジャッド財団の1階はガラス張りで、昔と変わらず展示を外から見ることができる(2階以上の見学は要予約)。
また、ジャッド財団はホームページ上で草間彌生との交流(goo.gl/nKJ5mx)や、1968年のホイットニー美術館での個展(goo.gl/qp1BtT)など、様々なエピソードを定期的に紹介。作家旧蔵のアーカイブの写真や文書を駆使した構成で研究性も高い。
歴史の長い非営利団体も散在しているが、代表格はドローイング・センターだろう。テリー・ウインターズのミニ個展と、ヒップキスの新作個展を開催中(ともに8/12まで)。これまで風景の中にディストピアの物語をつむいできたヒップキスだが、依頼を受けて構想した晩餐用皿のデザインが精密すぎて実用に適さず、それを作品として展開したドローイングのシリーズ《ブルワーク》は一見すると審美的だが、超越、非合理な野心、敬虔などのアレゴリーを塔の形に表現している。
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