11月1日―ハウザー&ワースで具体展がオープン(~12月22日)。69丁目のこの場所には、かつてマーサ・ジャクソン画廊があった、と思い出す。とすれば同展で1958年に開催された具体のNY展から数えて60年目の記念すべき企画。同展で紹介された吉原治良の《白の絵画》は同年のカーネギー・インタナショナルでも展観され、カーネギー美術館が購入した名作だ。アメリカでは画廊といえども美術館からの作品借用は珍しくない。私なら、この企画には同作品を一押しで展観しただろう。一言尋ねてくれれば、教えてあげたのに残念!
オープニングで作家の荒川医くんが、隣のナラ・ロスラー画廊で大竹富江個展をしているから見てきては、とアドバイスをくれる。
大竹はブラジルに帰化した日本人作家で、サンパウロには彼女の名前を冠したインスティチュートもあるが、作品を見たのは今回が初めて。60-70年代の色鮮やかな抽象が中心だが、無数に作ったであろうコラージュ作品が面白い。制作過程を記録した写真も展示されていた(~12月22日)。
同じ夜に、ファーガス・マッキャフリー画廊の元永定正展もオープン(~12月21日)。ご遺族の中辻悦子さんや元永紅子さんにご挨拶する。同画廊が制作した紹介ビデオは、60年代NY滞在中にアクリル絵具で新様式にチャレンジした画家の変化を目撃した中川直人の解説も入って秀逸。
12月1日―ハウザー&ワースで具体展の関連パネルを企画。荒川くんと美術史家・由本みどりさんに参加してもらい、「フレッシュな眼」を銘打って三人で具体を再考した。話の最初に、5年前のグッゲンハイム展を見た人に挙手してもらったが、その数の少なさに驚愕。知らないから関連プログラムで学習したいという意欲は理解できるものの、具体はまだまだ知られていないのか、と少々落胆。
パネルの前にダウンタウンの天理ギャラリーに立ち寄り、東京芸大出身の作家5人を集めた展覧会(11月29日~12月12日)を見てきた、と由本さんがスマホの写真を見せてくれる。「あれ、これギュウちゃん?」と尋ねた私に、由本さんは「最新作ですね」と応える。
12月2日―「そんなはずはない、ここ数年作品を完成できなくて、とても心配していたんだから」と思い、篠原有司男宅に電話。夫人の乃り子さんが「そうなのよ、何とか完成」と、ほっとした口調で応答してくれた。
12月8日―ギュウちゃんの幅5メートルの新作を実見するため天理ギャラリーに出かける。
それにしても作家の晩年は難しい。自由度をました筆触で晩年様式を確立したレンブラントやティチアーノもいるが、ギュウちゃんの場合には、気に入らないところがあればカンバスの上に白い紙を貼り足して描き直す、新技法を近年開発。だが何度貼り足しても満足できず未完成に終わることが多かったようだ。愛読書・樋口一葉の「たけくらべ」をモチーフにした新作は、ちょっとラフだが「早く、美しく、そしてリズミカルであれ」というモットーを体現。これからも元気で描き続けてほしい、と一ファンとして祈る。
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