今夏の話題の展覧会は、メトロポリタン美術館の壮大華麗な「キャンプ」展(9月8日まで)が第一だろうが、グッゲンハイム美術館の「アーティスティック・ライセンス」展も、夏を意識した企画だ(2019年1月12日まで)。副題にあるようにグッゲンハイムで個展をした6人の作家が同館の収蔵品を選び、螺旋状にめぐる回廊ランプ全体を使って作家の眼を披瀝する。
美術館がアーティストを収蔵庫に招いて収蔵品による展示を依頼する企画は珍しくはない。
NYでは、MoMA がチャック・クロースに「アーティスト・チョイス」として依頼したのが最初だったのではないか、と思い MoMA のウェブを調べてみたら、クロースは1991年。スコット・バーデンの企画した89年が最初だったようだ。
ただ MoMA の企画は小展示に類する。美術館のメインの収蔵品展示をアーティストに任せたわけではなかったから、グッゲンハイムの試みは大胆だといえる。
6月15日に拡張準備のために閉館した MoMA は、10月21日に新装オープンして収蔵品の展示構想を一新すると予告している。グッゲンハイムの試みは、それを睨んでの先手という見方もありうるかもしれない。
その意味では、蔡國強、ポール・チャン、ジェニー・ホルツァー、ジュリー・メーレトゥ、リチャード・プリンス、キャリー・メイ・ウィームズの人選は興味深い。順番に、火薬画を開発した中国生まれのベテラン、ビデオやパフォーマンスなどマルチに活躍する香港生まれの若手、アメリカ生まれでLEDのテキストを華麗に演出するベテラン女性、重層的なドローイングで知られるエチオピア生まれの若手女性、パナマ生まれで「ピクチャー世代」の旗手、人種差別の歴史を写真を媒介に撃つアフリカンアメリカンのベテラン女性、という顔ぶれで、今日の美術館の緊急課題である多様性とグローバリズムが、それぞれの実践に根ざした芸術観を通じて形となる。
考えさせられたのは、蔡國強の「非品牌」と銘打った「若描き」の集成。「え、これが、あの作家の…」と思うような小品群には、自らの具象油彩がいくつか混じっている。グッゲンハイム所蔵のロスコーなど巨匠の名作を思わせる火薬画をガラスと鏡の上で製作した新作シリーズもその対極としてあるのだろう。
意外だったのは、抽象表現主義を中心に語られる戦後絵画にグローバルな広がりを取り戻そうと提案したリチャード・プリンス。ずいぶん昔のことになるが、既成のメディア・イメージを借用するのが身上の作家が実は絵画を愛しているのではないか、と個展を見て感じたことがあった。それだけに、抽象絵画の歴史に正当に正面攻撃をかけてきたので、私としては逆に納得する部分もあった。
グッゲンハイムのコレクションという制限があるので具体はないが、アンフォルメルのマチューなど、意外に見れる作品が収蔵されている。また、ユーゲニズムで一世を風靡した岡田謙三に、同趣向の大橋を並べているのも驚きだった。
≫ 富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] アーカイブ