8月1日オープンの「あいちトリエンナーレ」に出品されていた「表現の不自由展・その後」が二日後に閉鎖された事件は、5日にはNYタイムズ紙の記事になり、CIMAM(国際美術館会議)の「美術館ウォッチ委員会」が声明を出して「甚大な関心」を表明するなど、国際的にも注目を集めている。
そもそも過去に検閲された、あるいは検閲的状況にさらされた作品を集めた展観が閉鎖されて、二重に表現の不自由が立ちあらわれた。大型国際展であること、また日韓関係が緊迫していることも注目の要因だ。
「あいトリ」HP や Art iT のニュース(ともにバイリンガル)や美術手帖オンライン版では事件の進展や声明などが刻々と報道されていて、関心の高さがうかがえる。
まだ進行中の事件であり、政治的内容もからまり複雑な様相を呈しているが、その重要性から、NYではホワイトボックス・ハーレム・アートセンターで、私が主宰するポンジャ現懇が協力して、9月17日に緊急報告会「Unfreedom of Expression」を行なった。
その準備で住友文彦や Art iT のアンドリュー・マーケル(以下敬称略)などから提供された情報や論考を読んでいるうちに、大きく3つの論点が見えてきた。
第一に憲法で保障されている(はずの)「表現の自由」を求めて作家が積極的に動いている。作家たちが問題意識を組織化して ReFreedom_Aichi を立ち上げたのは重要だ。
第二は「慰安婦」にまつわる歴史問題で、ナショナリズムからの押し戻しに対して、フェミニズムと人権の視点からは「ジェンダー平等」が浮上する。ReFreedom_Aichi はこの点に踏み込んでオンライン署名運動を展開していて、社会的思考の深まりを感じさせる。
第三に、展覧会が〈社会の中の装置〉であることが如実に浮き彫りにされた、と言える。表現そのものだけではなく、その表現と展覧会の外側にある社会との関係を抜きにしてアートは語れないのだ。県が「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」を設置して現在ヒアリングなどを行っているが、徹底した調査を通じて展覧会という〈装置〉の将来を拡げるステップとなることを期待したい。
ホワイトボックスでの報告会は、まず「あいトリ」を見た手塚美和子(ポンジャ副主宰)が、「表現の不自由展・その後」閉鎖や数々の声明の掲示など現場状況を報告。続いて「あいトリ」出品作家の加藤翼(スカイプ参加)と津田道子(会場)がメンバーとして ReFreedom_Aichi の趣旨を紹介。2013年に「あいトリ」キュレーターを勤めた住友文彦からは検閲、歴史修正主義、美術館ガバナンスについて論点鋭く解説したビデオが送られてきた。ジェンダー問題に取り組む「明日少女隊」は慰安婦問題を解説して「歴史を記憶することが私たちの責任」であると強調、コメンテーターをつとめるポンジャ・メンバーの由本みどりが明日少女隊に出した質問から、事件の背景にある十代の超保守化は日米共通であることなどが分かった。
2時間に及ぶ報告会のビデオ記録はホワイトボックスのHPで公開される予定。
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