オーストラリアに講演出張した折に、タスマニアの MONA に足を伸ばしてきた。
MONA は Museum of Old and New Art の略称で、プロの賭博師でコレクターのデービッド・ウォルシュが2011年にオープンした。直島に似た発想の観光型美術館で、小高い岬に地上1階地下3階の本館と、隣接のワインバーなどの施設や大型野外彫刻が広大な敷地に配置されている。最寄りのホバート港から専属フェリーやバス(とも有料)で30分程度の距離。フェリーは観光客に人気が高い。
MONA は「新古の美術館」を意味し、エジプトのミイラ棺も展示されていたが、実際には現代美術が中心。壁を黒く塗って「闇」を主調音とする地下はエレベーターやトンネルでつながっている。大きなガラス窓から「光」のさしこむ地上部分との対比でダイナミックな建築空間だ。
ただ、地下部分は案内マップを見ただけでは位置関係が分かりづらく、最初はどう歩いてよいのか分からず困惑した。
しかし、今振り返ってみると、手探りしながら前に進みアートを体験していく一種の巡礼が意図されていたのだろう、と理解できる。
そもそも、MONA は01年にウォルシュが設立したモーアリラ古代美術館に端を発する。(Moorilla はウォルシュ所有のワイナリーの名称)。そこから現代美術へとコレクションを拡張し、美術館の建築自体も拡張してきた歴史とも符合する。
たとえば、ジェームズ・タレルの作品が5点もあるのも、ウォルシュの中にアートを通じて宗教世界の外にある精神性を求める気持ちがあることを思わせる。
激しいストロボ色光のオーケストラで目が痛くなった《Unseen, Seen》は、完全漆黒の《闇の重さ》と組み合わせて、タレルの中では珍しく極端な表現だ。光が七色に変化する廊下のエンバイロメント《私のそばに》や、未見だが屋上に設置されて日の出・日没時に無料鑑賞できる《Amarna》は、微妙な光の変化をテーマとしたタレルらしい作品だ。超心理学の全域実験に取材した《イベントの地平》も珍しく、未見に終わり残念だった。
世俗的な精神性の追求という意味では、今年6月新たに地下に拡張オープンしたシローム館(Siloam)を見ることができたのは収穫だった。エルサレムの古代遺跡から名前をとった構造だが、艾未未の《白い家》(2015年)を筆頭に、若手のオリバー・ビアの《MONAでの告白》、アルフレッド・ジャー《神曲》、そしてトンネルを最大限に生かしたクリストファー・タウンゼンドの《害虫の鎮魂歌》と、これらだけでも MONA を訪問して体験する価値はあった。
ジャーは、初期から写真や映像を使って政治的なテーマを扱ってきたが、この新作は、ダンテの「神曲」をモチーフにしたインスタレーションで、人類の普遍的テーマを探求する。《地獄篇》の熱と水の恐怖、《煉獄篇》ではアメリカのパフォーマンス作家、ジョーン・ジョナス演じる老女が死を迎える静謐の時間、《天国篇》では空をモチーフに感覚遮断を演出して、40分の体験を構成していた。
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