新型コロナウイルスのパンデミック化で、NYでは美術館をはじめとする文化施設が3月中旬に一斉に閉鎖され、全米でも順次閉鎖が広がった。外出規制と社会隔離が日常化する中で、アートをめぐる状況も激変し、これからの展開も不鮮明だ。
雇用問題や美術館予算、美術市場の行方など難問は山積みしているが、メインの舞台が暗転してしまった状況で、今アートがどのように活性の場を見出しているのか、いくつかの試みを受け手の立場から選んでみた。
① おそらく私個人の志向もあるのだろうが、美術館や画廊での鑑賞で一番嫌いだったのがビデオや映像の作品。上映環境もさることながら、時間の拘束も理由の一つだった。
だが、時間がほぼ無制限にある今、ネットでストリーミングされる作品類は大歓迎。その一つがアラカワ+ギンズの作品継承をめざす天命反転財団(Reversible Destiny Foundation)が隔週で出すニュースレター「気晴らしシリーズ」。第一回4月3日付ではドキュメンタリー『死なない子供、荒川修作』を無料公開。しっかりと堪能させてもらった。
② ビデオを一番に上げた理由は、在宅のネット利用に一番乗りやすいからでもある。逆に美術館や展覧会という「物理的」存在はネットに乗りにくい。NYタイムズの4月24日付文化芸術欄では「美術館を自宅に招こう」 なるタイトルで、グーグル・アートや、館蔵品をネット鑑賞に供する美術館のプログラムを特集していた。私もいくつか試してみたが、正直に言えばアートは現場における直接体験に勝るものはない。その中で珍しく体験満足度が高かったのは、シカゴ現代美術館の展覧会サイト「デュロ・オロウがシカゴを見る」のバーチャル・ギャラリーだ。
オロウは、ナイジェリア生まれのデザイナー。アフリカ感覚溢れるファッションと館蔵のアート作品を組み合わせたビビッドな展示を、インタビューやオーディオ解説、スライド・ショウを縦横に使って紹介する趣向。これだけ楽しませてもらうと、都市閉鎖解除後には一番に会場に足を運んで実体験したくなる(会期は9月27日までの予定)。
③ 画廊もニュースレターや定期のメール配信で、ブログやバーチャル・ギャラリーを宣伝しているが、出色なのはロンドンとNYを拠点とするルクセンブルグ&ダヤン。「一言の距離」と題して、アーカイブ資料から作家の手紙を紹介する。第一回はデュシャンが愛人(シュルレアリスムの彫刻家)に送った手紙、一番最近の第九回ではキャンベルスープ社の製品管理部長からアンディ・ウォーホルに送った手紙など、画廊の展覧会やカタログ出版のための調査結果を蓄積したアーカイブの実績を披歴する。
今ではメールやスカイプ、ズームによる交信が日常化しているが、「書簡」の言葉は重みが違う。ほんのりと嬉しい試みだ。
ニュースレターはメール配信のみ。申し込みは London@luxembourgdayan.com まで。
番外 前回報告した「7時のサウンド・アート」への参加は現在も継続中(5月13日記)。
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