富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :特別報告―費府のJJ+CCJ+Gyu

2022年02月25日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

《ドリンク・モア》の前に立つ篠原有司男と担当キュレーターのカルロス・バスアルド 筆者撮影

《ドリンク・モア》の前に立つ篠原有司男と担当キュレーターのカルロス・バスアルド
筆者撮影

 

2月11日

 

朝、ブルックリンの篠原有司男宅に集合、車でフィラデルフィアに向かう。

 

主な任務は、久里洋二の上映会でギュウちゃんと二人でトークをすること。企画はCollaborative Cataloging Japan (略称CCJ)で、ライトボックス・フィルムセンターとの共催。戦後日本の映像作品を修復・デジタル化して調査研究の資源にすることを目的に、足立・タッシュ・アンが設立した非営利団体で、日本の専門家と積極的にコラボして研究報告やワークショップを開催している。

 

今回は、アニメーション作家として知られる久里の珍しいドキュメンタリー・シリーズ「芸術と生活と意見」から、荒川修作篇と篠原有司男篇を紹介。1973年に日本で上映しただけでデジタル版の上映は世界初。90歳になっても現役バリバリの篠原を招いて当時のことをナマで聞こうと、トークが企画された。

 

費府行きには昨年9月に開幕したフィラデルフィア美術館のジャスパー・ジョーンズ回顧展「Mind/Mirror」が13日に閉幕する前に、同展に出品されているギュウちゃんのイミテーション・アートの名作《ドリンク・モア》を視察する目的もあった。これは、ジョーンズが64年に来日した折にプレゼントして以来ずっとジョーンズが大切に所蔵してきた、という稀有な来歴を持つ。

 

費府では美術館に直行。ジョーンズ展をざっくり見ながら進んでいくと、数字作品だけを並べた大きな部屋があり、一瞬息をのむ。何かすごい光景なのだが、今日の目的は《ドリンク・モア》だから我慢して先に進む。

 

篠原作品のコーナーは「Japan」と銘打ち、ジョーンズの64年の日本滞在での交流がテーマ。担当キュレーターのカルロス・バスアルドに迎えられて、歓談の時が流れる。同行の篠原乃り子さんと90年以後の作品や紙作品をじっくりと見ながら感想を話し合った。

 

夕刻、上映会とトークの会場へ。ドキュメンタリーは72年11月頃の撮影と思われ、オートバイ彫刻を始めて4カ月ほどの時期。現・兵庫県立美術館所蔵の《モーターサイクル・ママ》制作のシーンもあり、超貴重な制作風景の記録だ。

 

私はいくつも質問を用意していたが、上映と作家紹介の後でギュウちゃんが「もういいじゃない、これで。ボクシングの話をしようよ」ということになり、急遽内容を変更。ところがギュウちゃんは確信犯で用意周到。持参のボクシンググローブなどを見せて「僕のボクシング・ペインティングの秘密」を公開、会場との質疑応答も盛り上がった。

 

ライトボックス・フィルムセンターでの上映会企画・参加の面々:足立・タッシュ・アン(CCJ)、篠原乃り子、篠原有司男、筆者、ジェフ・ロススティーン、ジェシー・パイヤーズ(ライトボックス) Photo: Derek Tasch

ライトボックス・フィルムセンターでの上映会企画・参加の面々:足立・タッシュ・アン(CCJ)、篠原乃り子、篠原有司男、筆者、ジェフ・ロススティーン、ジェシー・パイヤーズ(ライトボックス)
Photo: Derek Tasch

 

2月12日

 

朝、昨日ゆっくり見れなかったジョーンズ展を見に戻る。《数字》のテーマは数多く描いているが、これほどの種類と数を集めたのは、おそらく初めてではないか。モチーフの日常性にも拘わらず、これだけのバリエーションを制作した作家の創造性を思うとともに、それに実直に向き合って見ごたえのある展示に仕立て上げたキュレーターの慧眼と地道な、ほとんど献身的とも言える努力を思うと、思わず涙が出そうになってしまった。ちなみに、NYのホイットニー美術館でもジョーンズ展を同時開催していた。

 

ジョーンズ回顧展展示風景。ジョーンズの数字の作品は、表現や手法、サイズが多様で、いくら見ても見飽きることがない。筆者撮影

ジョーンズ回顧展展示風景。ジョーンズの数字の作品は、表現や手法、サイズが多様で、いくら見ても見飽きることがない。
筆者撮影

 

ジョーンズ回顧展展示風景。ジョーンズは、版画の試し刷りを捨てずに保管していたが、ほとんど一点物のモノタイプに近いとも言える。執拗に同じ版における色彩の可能性を追求した作家がいて、それを丹念に調べて展示したキュレーターがいる。まさに、作家とキュレーターの二人三脚だ。筆者撮影

ジョーンズ回顧展展示風景。ジョーンズは、版画の試し刷りを捨てずに保管していたが、ほとんど一点物のモノタイプに近いとも言える。執拗に同じ版における色彩の可能性を追求した作家がいて、それを丹念に調べて展示したキュレーターがいる。まさに、作家とキュレーターの二人三脚だ。
筆者撮影

 

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