さる2月10日に開幕したアムステルダム国立美術館のフェルメール展はアメリカでも話題になっている。確実にフェルメール作とされている絵画が全世界に37点しかないという超レアな作家である。そのうちの28点を集めた史上最大の回顧展と銘打っている。
是非ともオランダに行かなくては!いくらなんでも飛行機代を考えると……。ファンの思いは様々だろう(会期は~6月4日)。
いずれにしても、一つ知っておくべきことがある。それは同館が作品展示という物理的な事業に全力投球したのみならず、デジタルでも全力投球してオンライン体験を用意してくれていることだ。
オランダまで行けない人には朗報である。家にいながら大好きな作家を満喫できるからだ。だが、このデジタル企画は行って見る人こそ事前に活用すべきかもしれない。なぜなら会場ではオーディオガイドも解説パネルもなく、グループによる解説ツアーも禁止されている。それに開幕一カ月前には予約券が10万枚以上売れてしまった大人気の展覧会である。会場の混雑を考えると、とても現場でお勉強できる環境ではないだろう。だから、オンライン予習を一押しする。
そのオンライン体験だが「ヨハネス・フェルメールをもっと近くで」と題されている。1ピクセルで5マイクロメートルの精度まで拡大できる超高解像度の画像を駆使しているので「もっと近く=Closer」というよりは、近づけるだけ近づいてみることを可能にしている。ちなみに、同館は最近レンブラントの傑作の一つ《夜警》を、この精度の画像でオンライン公開している。
オンラインならではの体験は、さまざまに工夫されている。ポータルのwww.rijksmuseum.nl/en/johannes-vermeer に入ったら、フェルメールの作品全37点がZoomの画面宜しく格子状に並んでいる。デジタルだから会場にない作品も並べられる。
まずは、英国男優スティーブン・フライがナレーションするツアーから始めることをお勧めする。英語だが聞き取りの苦手な人たちのために英語の字幕が同時に流れる。グローバルな観客層を意識した配慮にちがいない。
一般観客向けだが、適宜画像を拡大しながら鑑賞のポイントを教えてくれる。また、フェルメールが所蔵して自宅に飾っていた画中画の話や近年の修復調査などで解明された制作途中の図像の変更など専門的な話も分かりやすく挿入されている。
日本人は神学に馴染みが薄いだろうが、もともとはプロテスタントだった画家が、カソリックの女性と結婚して改宗して旧教における「光」の精神的意義を知ったという伝記的背景の解説は、独特の質を持つ静謐な光の表現への関心を深めてくれる。ゆっくり座ってのオンライン鑑賞ならではの学習だろう。
このオンライン・ツアーをマスターしたら、自分で作品を選べるオプションに進んで、細部を拡大したり、黄色いジャケットや真珠など特定のトピックを複数の作品を横断して学習するなど、探索の可能性は計り知れない。
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