7月の末に友人の追悼式でミシシッピ州のビロクシという海沿いの街に出かけた。ビロクシにはデルタ航空が一番便利ということで、ラガーディア空港から出ることにした。
近年のNYでは、公共インフラの近代化が随所で進行していて、老朽化していたラガーディア空港も改装されている。いつも使うアメリカン航空のターミナルも綺麗になっているが、デルタは出発用玄関からカウンター、そして搭乗口へと広々とした空間が続いている。
気分よく歩いていたら、地上階、出発階、到着階をつなぐ吹き抜けの大空間に不思議なものを見つけた。細長いしずく型の黒い造形物がいくつも天井からぶら下がり、大小さまざまな黒地の地球儀も浮かんでいる。
黒いしずく型のDropletは、フレッド・ウィルソンのトレードマークだけど、と思いつつ急いで周囲を見回したら、あるある、作品解説の小パネルには「フレッド・ウィルソン作《Mother》2022年」と記されていた。
黒を背景に色とりどりに地球儀を塗り分けることで、どれがどこの国と特定する地図の標識性ではなく、複雑に入り組んだ国と国との関係性を視覚化したかったのだという。
やっぱり、と思いつつ周囲を見回すと、同じ階の反対側にある吹き抜けには、ランプ風の造形物がいくつも釣り下がっている。デザイン系には見えないので、アート系に違いないと思って解説パネルを探したがすぐには見つからず、ウィルソンの写真だけをパチリと写して、搭乗口へと向かった。
帰宅してから、思い出してネット検索したら、なんとウィルソンの作品は、空港を管轄するNY・NJ港湾局と店子のデルタ航空が、近隣にあるクイーンズ美術館と共同してNY在住のアーティストにコミッションして設置したパブリック・アートの一つだった。
例のランプもその一つで、ヴァージニア・オヴァートンの《スカイライト・ジェム》と題されている。廃物として破棄されたスカイライト(天窓)の破片を回収して、それぞれの破片と同形の破片を新たに作り、貝殻のように合わせLEDを仕込んだジェム(宝石)である。質実剛健ながらデリケートな一面を併せ持つNYの建築史への暗喩となっている。
さらに《空港を稼働させている人たち(ラガーディア空港デルタ・ターミナルC)》と題してパイロットや客室乗務員、警官や消防士、乗客案内スタッフやタクシーの配車係など16人の群像を等身大に描いた壁画にまとめたアリザ・ニセンバウム、60人の旅行者の肖像を巨大なグリッドに構成したラシド・ジョンソン、グローバル・スポーツになったサッカーに発想して、旅行者の動きを体育館の床を思わせる画面に図式化したロニー・クェヴェド、NY市内に分布する700を超える言語をイメージ化したマリアム・ガニがいる。
それぞれグローバルな多元性をテーマにしていて興味深い。記事のための写真が必要なのでクイーンズ美術館の岩崎仁美に連絡したら、あれは彼女の仕事だったという。さすがNYのベテランキュレーターである。
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