今月はメトロポリタン美術館(MET)の正面玄関の長期コミッション展示に李昢(イー・ブル)が抜擢されて現在展観中(~来年5月27日)であることを報告する予定で、コンピューターに向かったのだが、ふと気が付いたら今日は10月14日月曜日。
アメリカの祭日は、クリスマスと新年以外は何月第何週の何曜日という形で制定されている。たとえば、収穫感謝のサンクスギビング・デイは11月の第4木曜日だ。今日は10月の第2月曜日で従来コロンブス・デイと呼ばれてきた。コロンブスの出身国イタリアを記念して、NYではイタリア系住民が祝祭のパレードを行う。
ただし、北米大陸に最初にたどり着いたヨーロッパ人はコロンブスではなかったばかりか、「発見」するも何も、それ以前からこの大陸に生活している人々が数多くいたわけで、歴史の見直しが要請されていた。その一環として、10月の祝日を「先住民の日」と改称する動きが新たに起こり、近年定着の兆しを見せてきた。
今年は、購読しているオンライン美術批評の「Hyperallergic」が「先住民の日」にちなんで、「美術館における〝土地確認〟の有効な方法は何か」という記事を出していた。
「土地確認」(land acknowledgment)とは、その土地に先住民がいたことを確認する宣言で、私も2021年8月1日号の本欄でMETの取り組みとして紹介している。同館の場合には、正面玄関のわきにブロンズ製の銘板をはめ込んだ本格的なものとなっている。
オンラインの記事によると、美術館関係ではHPに記載することが多いようだ。とすると、METの銘板は重要な事例になる。
美術館の正面玄関は、METに限らず美術館の顔である。同館の正面玄関は、長大な2ブロックにわたって威風堂々たる存在感をしめしている。美術館のロゴ入り横断幕や時々の展覧会の垂れ幕は目立つ存在だ。それに比べるとスケール感は小さいが、入口の両脇にある合計4つの壁龕(へきがん)へのコミッション展示は、土地確認銘板と同じく、METのアートに対するスタンスを象徴する場となる。
このコミッションに本年度は韓国出身でグローバルに活躍する女性作家が選ばれたのだ。イーは一日半をかけてMETの館蔵品を調査し、ピカソやレジェーのキュビスム、ボッチョーニの未来派彫刻や、ブルジョワの建築と人体のハイブリッドの素描などにインスピレーションを得たという。
ところで、イーは同コミッションでは5人目だが、初回のワンゲチ・ムトゥはケニア出身、第3回のヒュー・ロックはガイアナ系英国人、第4回のナイリー・バグラミアンはイラン出身と非西洋出身の現代作家が目立つ。
しかも、イーを選んだのはMETで初めてとなる近現代アジア美術専門のキュレーターのレズリー・マである。台湾出身のマは香港のM+でインク・アートのキュレーターをしていた経験もありグローバルな視野の広いことも付記しておきたい。
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