美術年鑑社が『平成の書』を刊行され、平成三十年間の書道界を記録に纏めてくださったことに敬意を表します。特に平成に亡くなられた物故の先輩、師匠方の作品には改めて魅入ってしまいました。この一冊により、令和の書がどのように展開するかを共に考え、共に励みたいという思いを強くいたしました。解説も非常に良く書かれており、書道人はぜひ机上に具えて折に触れて読んでいただきたいものと思い、ここに推薦いたします。
平成時代は、偉大なる先輩方が築かれた書の世界を継承し深化させ、さらに次世代へとつないでゆくという役割をもった時代だったと思います。平成の終盤には、書を取り巻く厳しい状況に一石を投じる活動として、書壇が一体となり、学校での書写教育の充実を求める署名活動や、日本書道をユネスコの無形文化遺産に登録する運動が盛り上がりをみせました。『平成の書』では、書作品の紹介にとどまらず、このような活動の流れや、未来を見据えての評論なども収録され、多角的に編集された書家必読の一冊だと感じております。
『平成の書』で、直近の三十年を振り返る良い機会を得ました。年が改まれば令和も二年となり、平成もどんどん過去へと遠ざかっていきます。新たな令和の時代を、私達はどのように構築していけばよいのか、そのヒントがこの大部の『平成の書』には詰まっています。次代を占う一冊として、一読をお勧めいたします。
このたび刊行された『平成の書』のページをめくり、それぞれの立場で、真摯に書に向き合う書家の作品を見ながら、平成という時代の様相をあらためて思い起こしました。近年、中国での新しい文字資料が次々に公開されたのは、漢字を扱う書家にとっても刺激的な出来事であったと思います。その資料がまとめてあり、興味深く拝見しました。また、お世話になった田宮文平先生の遺稿が深く心に沁みました。大切な一冊になりました。