「フランスでの作陶」-LOUBIGNACの丘の上で-
革新的な茶陶表現を追求し、現代陶芸に新たな息吹をもたらし続けてきた十五代樂吉左衞門(1949年京都市生まれ)。日本橋三越本店での待望の個展が、2012年12月26日より開催される。
樂は1973年に東京藝術大学彫刻科を卒業後、イタリアへ留学。31歳のときに十四代であった父を亡くし、翌年の1981年に、十五代樂吉左衞門を襲名した。
長次郎を祖に、桃山時代から続く樂家では、代々、作陶の技法や釉薬の調合などを子孫に一切伝えないという決まりがあるという。歴史を受け継ぎながらも現代を映し出す創造性とは何か―。樂は茶陶の制約とせめぎあいながらものづくりの本質を問い続け、先駆的な表現を追求する。その活動は建築や執筆など、作陶の領域にとどまらない多彩なかたちで展開してきた。
今展では、樂がフランス南西部・コレーズ地方のルビニャック村で制作した数々の作品を展覧する。樂が同地に渡ったのは2007年のこと。渡仏は、友人のフランス人陶芸家からの誘いがきっかけであった。この年は樂が茶室の建設を手がけた佐川美術館・樂吉左衞門館が開館するなど、多忙を極めていたとき。その中で敢えて新天地に臨み、4年にわたり夏の間現地で制作を続けた。
今回の個展に先立ち、「現代の座標 工芸をめぐる11の思考」展(東京国立近代美術館工芸館、2012年12月2日まで)で、樂がルビニャックで制作した焼貫黒樂茶碗や焼締花入を拝見した。鉱石を連想させる重厚感と輝き、抽象絵画のようなダイナミックなかたちと模様。森羅万象と呼応した有機的な造形は、実に美しい存在感を放つ。日本という日常を離れ、ルビニャックの小高い丘で豊かな自然と明るい太陽の光を体感しながら、新たな表現を切り拓く樂の創造の精神を切実に伝えていた。
本展では、会場の美術フロア全体で空間を構成する。茶碗や花入など約80点とともに、作家による写真作品を併せて展示。古今東西を往還しながら築き上げてきた樂の現在が凝縮される。今年をしめくくり、新年を寿ぐにふさわしい豪華な展観に期待したい。
【会期】 2012年12月26日(水)~2013年1月8日(火)
【会場】 日本橋三越本店本館6階美術特選画廊・アートスクエア・工芸サロン
(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
☎03 -3241-3311
【開廊時間】 10:00~19:00 【休廊】 2013年1月1日(火・祝) 【料金】 無料
【関連リンク】 日本橋三越本店
「新美術新聞」2012年12月11・21日合併号(第1299号)1面より