【上野】 エル・グレコ展

2013年01月23日 16:25 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

エル・グレコ「無原罪のお宿り」 1607-1613 年 サン・ニコラス教区聖堂(サンタ・クルス美術館寄託)、トレド、スペイン  ©Parroquia de San Nicolás de Bari. Toledo. Spain.

躍動する画面

―新たなエル・グレコ像に迫る

大橋菜都子(東京都美術館学芸員)

 

 

没後400年を迎えるスペイン絵画の巨匠エル・グレコ(1541~1614、本名ドメニコス・テオトコプーロス)の国内史上最大の回顧展。東京都美術館リニューアル記念特別展の第3弾となる本展は、「神秘の宗教画家」といった異名でも知られるエル・グレコについて、従来のイメージを超える独自の美学をもった哲学者であり、理知的な思索家でもあった新たな像に迫るものだ。

 

16世紀から17世紀のスペイン美術の黄金期に活躍したエル・グレコ。クレタ島に生まれ、ヴェネツィア、ローマでの修業を経て30代半ばにはスペイン・トレドに辿り着く。73歳で亡くなるまでこの地を拠点とし、対抗宗教改革期のカトリックの思想を反映した宗教画やたぐいまれな肖像画を遺した。その画面は独特の引き伸ばされたような身体表現、モデルの内面や精神性をあらわにするような人物描写、そして鮮烈な色彩によって特徴づけられよう。

 

本展は4章で構成され、第1章では肖像画家としてのエル・グレコを紹介する。モデルの正確な描写を目指した同時代の肖像画に対し、エル・グレコが探求した生き生きとした肖像画の魅力を堪能できるのは、《修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノ》(ボストン美術館蔵)。豊かな色彩と動きのある筆致、衣服のひだやモデルのしぐさなど、画面を構成する細部ひとつひとつによって作り上げられる生命感の溢れる最晩年期の傑作である。

 

エル・グレコ「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」 1611年  ボストン美術館 Photograph © 2012 Museum of Fine Arts, Boston.

第2章「クレタからイタリア、そしてスペインへ」では、各地で会得した知識と技術による画家の表現と主題の変遷を比較する。第3章ではトレドでの宗教画、そして第4章「近代芸術家エル・グレコの祭壇画:画家、建築家として」において、祭壇画のみならずそれが収められる祭壇衝立の設計をも手掛けたエル・グレコを紹介する。本展の大きな見どころとなるのは、高さ3メートルを超える祭壇画《無原罪のお宿り》。大胆な構図に加え、炎のようにゆらめく引き伸ばされた身体表現や極端な短縮法により、あたかも動き出すかのような躍動感のあるその画面は観る者を圧倒する。

 

本展には、《無原罪のお宿り》と同じオバーリェ礼拝堂を飾っていた《聖母のエリザベツ訪問》も出品される。もともとは天井に設置されていたと考えられており、そのため見上げられた際に適切な人体比例となるよう、描かれた身体は長く伸びてみえる。簡潔な構図ながらエル・グレコの思索の一部を垣間見ることができる。

 

本展開催に合わせて、スペイン及びエル・グレコの時代に関連するコンサートも実施する。エル・グレコが手掛けた多くの祭壇画は、教会の音楽と共に視覚に訴えるものであったであろう。ぜひ展覧会と合わせてお楽しみいただきたい。

 

 

会場風景

【会期】 2013年1月19日(土)~4月7日(日)

【会場】 東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)

☎03-5777-8600

【休室】 月曜、2月12日(ただし2月11日は開室)

【開館時間】 9:30~17:30(金曜のみ20:00まで、入室は閉室30分前まで)

【料金】 一般1600円 学生1300円 高校生800円 65歳以上1000円

【関連リンク】 「エル・グレコ展」公式ホームページ

 

「新美術新聞」2013年1月21日号(第1301号)1面より

 


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