画家は京都をいかに眺め、描いてきたか
植田彩芳子(京都文化博物館 学芸員)
伝統の都、京都。今も昔も魅力的な響きを持つこの地名は、風情ある町並み、由緒ある寺社や名所旧跡、豊穣な海や美しい山河の風景、そして長い歴史、文化や風俗・芸術といった、日本の文化を象徴する様々なことがらを思い起こさせる。そのため、古くから多くの人々が、京都を想うこころを様々なかたちで表現してきた。
そのような京都への想いと芸術の営みを現代へと受け継ぎ、さらに未来に伝えていくために、京都府では平成23年から2年にわたり、現代京都の日本画壇を代表する作家に依頼し、京都の風景を描いた100点の新作日本画シリーズ「こころの京都百選」を制作した。本展覧会は、この「こころの京都百選」が完成したことを記念し、開催するものである。
本展覧会は2部構成になっている。まずプロローグは、円山応挙の「京名所図屏風」をはじめとした江戸時代に描かれた京都の姿に始まり、幸野楳嶺、上村松園といった明治・大正・昭和・平成と続くそれぞれの時代の日本画家たちが思い描いた「京都」を紹介する。その上で、中路融人、岩倉寿、上村淳之ら現代京都の日本画壇を代表する作家が、京都の風景を描いた100点の新作日本画シリーズ「こころの京都百選」すべてをご覧いただく。過去から現代にかけて、画家は京都をいかに眺め、いかに描いてきたか。美しい京都の姿の数々をお楽しみいただければ幸いである。
出品作の中から、2点をご紹介しよう。プロローグからは調査の過程で発見された菊池契月の美人画「京人形図」をご覧いただきたい。描かれているのは、近世初期風俗の美人の図。17世紀頃に流行した兵庫髷、黒地に扇模様の着物の下には、辻が花風の模様も見える。繊細な描写が見事な優品である。ところで、この作品、京美人が描かれているのに、箱書には「京人形図」とある。この理由をご存じだろうか。実は、「京人形」というのは、常磐津の一つで、京の彫物師の左甚五郎が見初めた美女の面影を人形に彫ったところ、人形に魂が宿り動き出したというストーリーなのである。この作品には、そうした物語が背景にあったのである。
「こころの京都百選」からは、中路融人の「霧雨の清水寺」をご覧いただこう。描かれているのは、よく知られた清水寺の舞台。しかし、同じ清水寺でも、絵はがきや観光写真とは異なる画面構成をとっていることに、この画家特有の視点が感じられる。霧雨の清水寺を描いているものの、画面には雨が描かれていない。冬へと向かうひんやりとした冷たい空気の感じ、霧雨の降る湿った大気の感じを、透徹した写生を通して見事に表現している。
【会期】 2013年2月9日(土)~3月24日(日)
【会場】 京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)☎075-222-0888
【休館】 月曜
【開室時間】 10:00~18:00(金曜のみ19:30まで、入室は閉室30分前まで)
【料金】 一般1100円 大高生700円 中小生400円
【関連リンク】 京都文化博物館 公式ホームページ
「新美術新聞」2013年2月11日号(第1303号)1面より