七〇年代を起点に現在を再考
谷新(宇都宮美術館館長)
「もの派」や「具体」などの動向は毎年のように国の内外で紹介され続けていますが、その後の一九七〇年代はこれまであまり紹介されてきませんでした。ひと口にとらえ方が難しいからですが、近年、内外の関心はしだいにこの時代に向かってきました。
ミニマルと言うとき、人は何を想い浮かべるでしょう。一般に「ミニマル・アート」と言うと、一九六〇年代、特に後期に見られた表現傾向を指します。主観的な表現性に乏しく、客観的でクールな印象を与える表現傾向のことを意味しています。しかしこの企画では、そうしたある時代、傾向を限定的に振り返るという考えはありません。
むしろ、そうした表現傾向やその背景となる主義主張、いわゆる“イズム”を旗印にした六〇年代までの歴史的展開に終止符が打たれようとしたのが七〇年代であり、そこを起点に今日までの絵画と彫刻の変遷をたどろうとしています。言い換えれば、“アート”を取っ払った時に見えてくるような問題意識であり、それが企画主旨のひとつです。
したがって、この企画では、「ミニマル・アート」といった、特定な動向に左右されない時代状況を巨視的にとらえようとしています。他方、七〇年代という、あらゆる表現が批判にさらされ疑問視されるなかで、表現に関わる人間みずからが自身を見つめ直し、あらゆる表現性をゼロ地平に戻して試行を重ねた試練の時代も問い直します。
そうしたすでに40年におよぶキャリアの作家たちのその後の展開を眺める一方、その後誕生してくる作家たちの表現を比較検証しようというのがもうひとつの企画主旨です。
そこには、次々と展開されて数十年を経た日本の現代の絵画、彫刻の新しい視点や考え方、表現精神のすがすがしい展開が見られると同時に、時にキャリアのある世代とその後の新しい世代をつらぬく思いもよらない多くの共通性を感じることになるでしょう。展覧会タイトルに掲げた「ミニマル|ポストミニマル」の“|”は、ミニマルとポストミニマル(ミニマル以降)が、時代的に変遷していくという表現史を意味しているのではなく、“同存”という位置関係を表わしています。もとより、表現は、時代とともに変化し新しい作品なりイメージを生産し続けます。しかし、ここにご登場いただいた作家たちの表現は、時代を超えた多くの共通性によって並立していることに気づかれるでしょう。
出品は次のみなさんにお願いしました。荒井経、石川順惠、薄久保香、遠藤利克、川島清、辰野登恵子、戸谷成雄、中村一美、袴田京太朗、堀浩哉。
【会期】 2013年2月24日(日)~4月7日(日)
【会場】 宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町1077)☎028-643-0100
【休館】 3月18日(月)、21日(木)、25日(月)、4月1日(月)
【開館時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般700円 大学生・高校生500円 中学生・小学生300円
【関連リンク】 宇都宮美術館 公式ホームページ
出品作家とのディスカッション
聞き手:谷新・宇都宮美術館館長
・「1970年代以降の絵画」(予定)
2013年3月24日(日) 14:00~16:00
【講師】 薄久保香、辰野登恵子、袴田京太朗
・「モダニズム絵画の現在」
2013年3月31日(日) 14:00~16:00
【講師】 石川順惠、中村一美
・「川島清―自作を語る」(予定)
2013年4月7日(日) 14:00~15:00
【講師】 川島清
「新美術新聞」2013年3月11日号(第1306号)4面より