工芸を幅広く捉えてきた軌跡
山野英嗣(京都国立近代美術館学芸課長)
京都国立近代美術館は、ことし開館50年を迎える。そして記念の特別展「交差する表現 工芸/デザイン/総合芸術」が開催の運びとなった。当館は国立近代美術館(現東京国立近代美術館)の京都分館として創立し、一九六七年には独立して京都国立近代美術館となり、現在は独立行政法人国立美術館の一館としてある。しかし、開館にあたっては京都市の要請を受け、「工芸」を軸にしながら活動を続けてきたことは、意外に知られていない。そこで今回の記念展も、「工芸」に的を絞って全フロアを使い、あらためて当館の姿勢をアピールしようと試みた。
ただ、記念展のタイトルにしては「ぶるっ」とこないかもしれない。しかし当館は、「工芸」を軸にしながら、「工芸」の「表現」形式を柔軟にとらえ、デザインやテキスタイル、ジュエリー、さらにはファッション、建築といった関連領域も視野におさめてきた。そうしたいわば「交差」する状況を、「表現」に注目し展覧会は構成されている。記念展は二部構成で、第Ⅰ部は「〈工芸〉表現の一断面」。キーワードは京都、そして「工芸」である。まず、現在の当館が位置する京都・岡崎で一八九五年に開かれた第四回内国勧業博覧会の紹介から、展覧会ははじまる。博覧会のパビリオンの中心は、「建築」の言葉を考案した伊東忠太のデビュー作となった平安神宮。伊東は「建築」が「美術」とともに「工芸」でもあると説いた。この図面が現存し、その思いは図面にも見事に表れている。さらにこの博覧会の出品作だった狩野芳崖が描く《悲母観音》(一八八八年、東京藝術大学蔵)をもとに、京都の織物業界を代表する二代川島甚兵衞が、原画と競うように綴織を制作した。このような明治時代における「工芸」と日本画の「表現の交差」、続いて近代における伝統の継承、アール・ヌーヴォーをはじめとする東西交流、竹久夢二や上野リチなどに見られる「デザイン」意識の確立などを視野に、最後に「工芸」と建築の総合された事例として、京都に誕生した《スターバー》(上野伊三郎設計・一九三〇年)内装の原寸大再現なども加え、新たな視点から多様な「工芸」表現の「交差」する様相を探ろうとした。
第Ⅱ部は、「美術館と〈工芸〉―所蔵作品より」と題し、当館半世紀の「工芸」作品収集の成果の披露となっている。国内外の陶芸や染織はもちろん、ガラスやジュエリーなど、当館が「工芸」の「表現」形式を柔軟に幅広く捉えてきたその軌跡を、コレクション・ギャラリーすべてに展示し紹介する。
【会期】 2013年3月16日(土)~5月6日(月)
【会場】 京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)☎075-761-4111
【休館】 月曜、ただし4月29日(月)・5月6日(月)は開館
【開館時間】 9:30~17:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般850円 大学生450円
【関連リンク】 京都国立近代美術館
講演会「交差する表現」
3月30日(土) 14:00~15:30
【講師】山野英嗣(京都国立近代美術館学芸課長)
※聴講無料、当日11:00より受付にて整理券配布、先着100席
「新美術新聞」2013年3月21日号(第1307号)1面より