最上川、瀬戸内の四季を描く2人展 ― 金山の外向的と佐竹の求心的風景
安井収蔵(美術評論家)
金山平三(かなやま・へいぞう、1883~1964年)、佐竹徳(さたけ・とく、1897~1998年、本名・徳次郎)。日本近代洋画前期洋画家として生き、巨匠と称されるに相応しく、ともに関西育ち、生い立ちにふれたい。
金山は神戸の高級料亭に生まれ、東京美術学校、黒田清輝の愛弟子、卒業、渡欧、戸外で制作する師譲りの外光派。帝展のちの日展に出品。人物、魚、動物、花、とりわけ風景に品格の高い作品を残した。1945年、山形県村山、最上川の川港、大石田で斉藤茂吉と親しくなり、旧家で医師、金子家2代の他、多くの支援者、理解ある友人を得、この地に住まいを移し、雪里の画家として生きた。
佐竹は大阪で手広く布団を商う家に生まれた。川端画学校に学び、金山が審査員を務めた年の帝展に入選。以来、2人は、師であり友の付き合いが始まる。西田天香、賀川豊彦の強い影響を受ける。日本列島の山野風景画家。1969年、岡山県牛窓(現瀬戸内市)のオリーブ園経営者、服部家の理解、支持を得て瀬戸内を望む丘に画室を構え制作。100歳の天寿を全う、高潔な作品を残した。
ともに日本の風景画に代表作を残した。アクリルという速乾性の顔料の無い時代、伝統的な油彩画技術を忠実に守り、風景を前にイーゼルを据え、現場で描きあげる戸外派。感動させる美さを平面に、如何に奥行きのある3次元的立体風景を再現するかに精魂を尽くした。簡単な素描、後は写真で済ませがちな今時の画家とは心構えが違う。その差異が見所のひとつ。
金山の「東北地方の春」「桜桃」「雪深し」「最上川辺」「あま鯛」「秋桜」「大石田の夏」など、のび伸びとした筆触は伝統的油彩画の表現を示し、内から外に展開する塑像的な盛り上がりがある。「雪深し」に見られる添景の人物にも、金山が持つ心の暖かさ、雪国への愛着、寒冷の豪雪にすら温もりが感じられる。雪の画家といわれるところ。雪の大石田の人たちと共に桜桃の花咲く里など北国を歓び愛した。
佐竹は奥入瀬、八幡平、岡山、牛窓のオリーブ園を描く。「牛窓」「まつやまII」「林檎」「ダリヤ」など心引かれる作品。金山が塑像的な作風に反し、内面を鋭く刻むように彫さげる。求心的な表現に終始する。セザンヌに傾倒した時代もある。心の内は禁欲、学究的。オリーブ園、岸壁、農家に吊り下がる、むしろ一枚の完成までに幾年を重ねたか、その執念は僧坊の求道者である。
金山、佐竹とに、後年は支持者、理解者に恵まれ、雪の大内田、牛窓のオリーブ園などをライフワークとした画家であった。よき時代でもあった。また、友人のような師弟の付き合い、よき自然に恵まれたことは間違いない。油彩画とは本来、どんなものか、心を揺さぶる作品とは、作家精神の何であるかを、やさしく平明に教えてくれる。心打たれる展観である。120点展示。
【会期】 2013年3月9日(土)~6月2日(日)
【会場】 笠間日動美術館(茨城県笠間市笠間978-4)☎0296-72-2160
【休館】 月曜、ただし4月29日、5月6日は開館、5月7日は休館
【開館時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】 大人1000円 大学・高校生700円 中学・小学生500円 65歳以上800円
【関連リンク】 笠間日動美術館
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「新美術新聞」2013年4月1日号(第1308号)1面より