【平塚】 絹谷幸二展〈インタビュー後編〉

2013年04月13日 11:59 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

(インタビュー前編はこちら) 

 

―東日本大震災から2年を経て、作家としてのメッセージ

 

絹谷 この2年間、私は東北の小学校をはじめ、日本中を駆け回り、年間37校くらいの子供たちに絵を教えています。東北・石巻にも3、4回行っています。

 

「アンセルモ氏の肖像」 1973年(第17回安井展受賞) 東京国立近代美術館蔵

「アンセルモ氏の肖像」 1973年(第17回安井展受賞) 東京国立近代美術館蔵

絵を描き始めてから50年が経ちますが、時間や時代というのはめぐりめぐっていく羅針盤のようなもの。そういう長い時系列の中で作家の作品は残っていくけど、創作する作り手は亡くなってしまうわけです。その中で、子供たちに絵を描く楽しみや、発想やイメージを展開する―イメージを豊かにすることができればそれがかたちになっていく、ということを教える。震災から2年になりましたけど、そういうイメージがかたちになるということを、被災地の子供たちにも教えながら、復興に役立ててもらえればいいなと。そしてその復興のカギというのは子供たちなので、そういう人たちを育てなければいけないなということに、今の僕の主力―やらなければいけないことは、絵を描くこと以上にそういうことだな、ということで子供たちに絵を教えているわけです。

 

美術学校で絵を教えるということは、絵を描く人たちに教えるわけなんですが、小学校や中学校の子供たちに絵を教えるということは、その人たちがどんな職業に就くか、まだわからないわけですね。警官になる人もいるし、他の職業に就く人もいるけども、そういう人たちに「絵は楽しい」ということを教えておくことは、もう僕の布教活動みたいなものなんです。商売をやろうが政治家になろうが、いろんな分野に進んでいくと思いますが、そこで心を働かせる、イメージの世界をはたらかせるということを練習しておけば、いろんなところで役に立つはずです。

 

 

―美術と教育について

 

「アンジェラと蒼い空Ⅱ」 1976年 東京国立近代美術館蔵

「アンジェラと蒼い空Ⅱ」 1976年 東京国立近代美術館蔵

1+1=2じゃない世界、1+1はそれぞれ違うんだという自在な世界があるということを知ってもらうことが、絵の教育だと思うんです。算数だと1+1=2じゃないと間違いだけれども、絵の場合は皆と同じ答えを出したら間違いという世界ですから、そういう多彩な発想力―多色といいますか、それぞれの色彩を持つ発想力が必要なんじゃないかと思います。

 

こういうことを教えてくれる科目が非常に少なくなってきている。何でも、答えが全部同じじゃないと正解じゃないという世界ばかり教えているものだから、画一化していったり、新しい時代の転換についていけなかったりするわけです。

 

ですから「絵画力」というものを、絵を専門的にやっていく人だけに教えていたらちょっと足りないなと思うことがあります。一方で僕は美術学校の先生をやっていますけど、それもまた、そういう指導者を育てたり、社会の人たちに私が教えることを、絵に進む人たちに教えることによって、私の手が千手観音みたいになるわけです。ただ、それだけじゃなくて、まるでどこへ行くかもわからない人たちに、もし困った時とか、いまドロップアウトしたりいろいろな社会問題も起こっていますけれども、そういう人たちにも、別の世界があるということを知ってもらえればいいかなと思います。

 

 

―古稀を迎えた現在(いま)、思うこと

 

アトリエにて

僕の考え方では、死後に黄泉の世界があるのではなく、この現実が仏教でいう「極楽浄土」であり、キリスト教でいえば「天国」や「楽園」であると思っているんです。今話しているこの場所、それは奈良仏教では死んだらお終いという世界なんですね。ですから作品は残っていくとしても、実際問題としては今生きているこの時こそ、この現実―地球上のこの世界こそ、極楽浄土である。

 

仏教に「不二法門(ふにほうもん)」という思想があります。たとえば苦と楽があるとすると、その苦と楽は別々なのではないということです。「水と油」とか「戦争と平和」とか、そういういったものは別々に考えて対立するものではなくて、ひと続きの世界なんだという話なんです。だから苦もあれば楽もあるわけなんだけど、楽の方が多いわけです。そして現実の世界でこそ解脱できるというふうな考え方なんです。その現実はどこかというと、浄土と今のこの世界であり、それこそが、一つの世界なんだと。男と女も同じ。そういうふうに反語関係にある言葉は、すべて別々で対立するものではないという考え方です。

 

いろいろな可能性のある子供たちに、絵の楽しみや色彩の美しさを教えておきたいと思っています。

〈了〉 

 

 

【関連記事】  【平塚】 絹谷幸二展〈インタビュー前編〉

 

 

「ニューヨークの天使」 1998年

「ニューヨークの天使」 1998年

希望のイメージ 絹谷幸二展

【会期】 2013年4月13日(土)~6月2日(日)

【会場】 平塚市美術館(神奈川県平塚市西八幡1‐3‐3) ☎0463‐35-2111

【開場時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)

【休館】 月曜(祝休日は開館)、4月30日(火)

【料金】 一般200円 大高生100円 

※中学生以下・毎週土曜日の高校生、障害者手帳をお持ちの方と付添1名は無料

 

 

 

 

 

<講演会> 講師:絹谷幸二 4月29日(月・祝) 14:00~15:30 申込不要、先着150名

<学芸員によるギャラリートーク> 4月13日(土)、5月4日(土)、6月2日(日) 14:00~15:00 要観覧券

<ワークショップ>「絹谷幸二のパワー絵画塾」 5月25日(土) 13:30~16:00 小中学生対象、定員20名

 

【関連リンク】 平塚市美術館

 

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