【六本木】 第90回記念 春陽展

2013年04月13日 13:20 カテゴリ:春陽会

 

1922年、15名の作家によって結成された「春陽会」。国内有数の美術団体として歴史を重ね、本年、第90回展を迎えた。記念展にちなみ、特別展示「春陽会新世代の作家たち」では、次代をになう実力派を紹介。ほかにも記念賞の授与や講演会も予定される。長年見続ける美術評論家の宝木範義氏に、同会の魅力と90年の原動力をたどってもらった。

 

 

知的で批評的 – 近代洋画壇へ広く示唆と影響を

 宝木範義 (美術評論家)

 

春陽会が90周年を迎える。‘春陽’は辞書をひらくと‘春のうららかな日差し’のこと。しかしここに集った、創立時の小杉未醒(放菴)、岸田劉生、梅原龍三郎をはじめ、後に屋台骨を支えた木村荘八、岡鹿之助、三雲祥之助、中川一政から、駒井哲郎、清宮質文らの画家、版画家を想い浮かべるならば、この団体は辞書にある意味とはぜんぜん違って、むしろくせ者揃いの、おのおのがひとつの枠に収まりきらない、はみだすような個性を持った、表現者の集団であったと言うほかない。

 

大石洋次郎「あんにゅいのじかん」130.3×162.1cm 〈第90回記念展 出品作〉

大石洋次郎「あんにゅいのじかん」130.3×162.1cm 〈第90回記念展 出品作〉

井上直子「悠久の祷り」(制作途中)130.3×162.1cm 〈第90回記念展 出品作〉

井上直子「悠久の祷り」(制作途中)130.3×162.1cm 〈第90回記念展 出品作〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この印象は今も変わらない。にこやかな笑顔の陰で一途な求道者でもある入江観のほか、五味秀夫、岩浪弘、小林裕児、三浦明範、沓間宏、丹阿弥丹波子、舩坂芳助、小浦昇といった、我が道をゆく作家たちが健在である。

 

もう20年も前のことになったが、『春陽会七〇年史』が刊行された折のこと。編集の任にあった三好寬佳氏から‘モダニズムと春陽会’というテーマの寄稿を伝えられて、木村荘八や三雲、岡、中川といった錚々たる画家たちの事績に接するうち、知的で文筆にたけた春陽会ならではの個性とスタイルに気づかされた。

 

彼らのけっして声高ではないが、他にまねのできない、時に孤影とさえ見える批評性の振幅と存在感。それはまさに春陽会の場を越えて、広く日本の近代洋画壇に示唆と影響を与えたのである。

 

加藤助八「予兆」162.1×162.1cm 油彩 〈第89回展出品作・絵画〉

加藤助八「予兆」162.1×162.1cm 油彩 〈第89回展・絵画〉

久家三夫「彼等に憩を」162.1×193.9cm アクリル 〈第89回展出品作・絵画〉

久家三夫「彼等に憩を」162.1×193.9cm アクリル 〈第89回展・絵画〉

八代美紀「浮かび上がる力」193.9×162.1cm 油彩 〈第89回展出品作・絵画〉

八代美紀「浮かび上がる力」193.9×162.1cm 油彩 〈第89回展・絵画〉

 

そう思いつつ我が本棚に眼をやれば、劉生、梅原は言うにおよばず、放菴、荘八、一政、岡、駒井から、観さんの近刊まで、春陽会にかかわる著作が並んでいる。文章を書くことは、絵を描くこととは違って、自分を相対化し、対象と自己の関係をさまざまな角度から見直すことでもあるから、春陽会の画家たちの批評性、あるいは懐の深さは、このようなスタンスから生まれたものであったろう。

 

70年史では、戦時下の難局に遭遇した際、岡鹿之助と中川一政のように、普段は角突合せていた、まるで正反対の個性の画家が、ともに手を携えて会の運営維持に協力したことが、倉田三郎、上原欽二の回想に見えている。

 

こうした忘れてはならない思いがあればこその90周年なのであろう。中川一政から入江観へ、そして観さんからより若い世代へ。春陽会を貫いた思いが受け継がれることで、戦中とはまた別の意味で美術が岐路にさしかかった昨今、共に描く仲間たちを励まし、共に美を語る場を支える役割を、この節目の後も担ってほしいものである。

 

最後になったが、ここに図版が載る8作家は、さまざまな年齢層にまたがるが、平素から着実な制作を持続し、今後も活躍を期待される面々である。

 

志野和男「形影(A-1)」63×42cm 孔版 〈第89回展出品作・版画〉

志野和男「形影(A-1)」63×42cm 孔版 〈第89回展・版画〉

早乙女務「くろつぐみのいる部屋」36×28cm 銅版 〈第89回展出品作・版画〉

早乙女務「くろつぐみのいる部屋」36×28cm 銅版 〈第89回展・版画〉

鈴木孝太郎「N・ASKA・L-212」45×55cm 銅版 〈第89回展出品作・版画〉

鈴木孝太郎「N・ASKA・L-212」45×55cm 銅版 〈第89回展・版画〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【会期】 2013年4月17日(水)~29日(月)

【会場】 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)☎03-6812-9921(会期中のみ)

【休館】 4月23日(火)

【開館時間】 10:00~18:00(最終日は14:30まで、入場は17:00まで)

【料金】 一般700円

【巡回】

名古屋展 2013年5月21日(火)~26日(日) 愛知県美術館ギャラリー

大阪展 2013年6月4日(火)~9日(日) 大阪市立美術館地下展覧会室

【関連リンク】 春陽会

 

講演会「木村荘八の芸術」

2013年4月28日(日) 13:30~15:00

【講師】 冨田章・東京ステーションギャラリー館長

【会場】 国立新美術館3階講堂

【料金】 無料

「新美術新聞」2013年4月11日号(第1309号)1面より

 

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