ミラノ アンブロジアーナ図書館・絵画館所蔵
レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像
天才レオナルド その眼差しと思考
小林明子 (東京都美術館学芸員)
ミラノの中心、大聖堂の西側にたたずむアンブロジアーナ図書館・絵画館は、ミラノの大司教であったフェデリーコ・ボッロメオ枢機卿(1564―1631)のコレクションをもとに設立された歴史ある施設で、貴重な書籍や質の高い美術作品を数多く所蔵しています。本展は、同館が所蔵するイタリア・ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452―1519)の油彩画《音楽家の肖像》と、名高い『アトランティコ手稿』からの22葉を一堂に集め、レオナルド作品の魅力とその思考の過程を探るとともに、同時代および後世の北イタリアで活動した芸術家たちの作品を通して、レオナルド作品の伝播の諸相を紹介するものです。
レオナルドが最初のミラノ滞在時に描いた《音楽家の肖像》は、レオナルドによる現存する唯一の男性肖像画です。赤い帽子を被り、左方をまっすぐに向く巻毛の若い男性は、レオナルドの友人でもあった音楽家アタランテ・ミリオロッティであると考えられています。暗い背景に浮かび上がる立体的な頭部や、解剖学的な研究に基づく顔の筋肉、一本一本丁寧に描かれた金髪、そして内面に迫る人物の表情に、写実をきわめた芸術家の優れた技術を見てとることができる珠玉の油彩画です。
レオナルドのスケッチや覚書を集めた『アトランティコ手稿』も見逃せません。この名称は、後世に冊子体として編纂された際に、地図帖(アトラス)と同じ判型の台紙に貼付されたことに由来します。内容は建築から軍事兵器、機械、光学や幾何学に関する図解と幅広い分野に及び、レオナルドがあらゆることに関心をもち、事物を本質的に理解しようとしていたことがわかります。また、紙葉のなかには、レオナルドの蔵書リストや父親に宛てた書簡も含まれており、芸術家の教養や人物像を垣間見ることができます。
レオナルドはフィレンツェとミラノを拠点としながらも、ローマやアンボワーズなど、各地を移動しながら創作を続ける旅する芸術家でした。いずれの地域でも注目を集めたレオナルドですが、唯一その影響が定着し、後継を輩出したのは、《最後の晩餐》や《音楽家の肖像》を描いたミラノを中心とするロンバルディアの地域でした。ジャンピエトリーノやアンドレア・ソラーリオ、ベルナルディーノ・ルイーニら、名を残すレオナルドの弟子または追従者たちの作品は、師の様式を軸としながら、同時代の芸術家たちのさまざまな表現を融合させた、洗練された画風を特徴とします。ロンバルディア地方の画家による《貴婦人の肖像》も、そうした芸術的環境のなかで制作された美しい肖像画です。真珠やサテンのリボンに反射する光の描写や、注意深い影の配置などに、レオナルドの影響が強く認められ、かつてはレオナルド自身に帰属されたこともあるほど質の高い作品です。その繊細な横顔は、本展に出品される、プロフィールの女性を描いたレオナルドの素描との関連が指摘されています。会場でぜひご覧ください。
これらの作品のほか、レオナルドにゆかりの書籍や、レオナルド前後の芸術家たちによる個性あふれる素描群を展示します。アンブロジアーナならではの複合的な展示を通じて、芸術家、科学者、発明家と、多才な顔をもつ天才レオナルドの、知られざる新たな一面が明らかにされることでしょう。
【会期】 2013年4月23日(火)~6月30日(日)
【会場】 東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)☎03-5777-8600 ※ 交通はこちら
【休室】 月曜、ただし4月29日、5月6日は開室、5月7日(火)は休室
【開室時間】 9:30~17:30(金曜のみ20:00まで、入室は閉室の30分前まで)
【料金】 一般1500円 学生1300円 高校生800円 65歳以上1000円
【関連リンク】 「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」公式サイト
「新美術新聞」2013年5月1・11日号(第1311号)1面より
〈招待券プレゼント〉
同展の招待券を、5組10名様にプレゼントいたします。
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締切 5月20日必着
※応募多数の際は抽選とさせていただきます。なお当選者の発表は、発送をもってかえさせていただきます。