【日本橋】 福田千惠展 ―永遠の美を求めて―

2013年06月17日 14:17 カテゴリ:日展

 

 

「玉姿」170×123cm

「玉姿」 170×123cm

千惠さんの花たち

髙山由紀子(脚本家・監督)

 

 

日本画壇を代表するひとり、福田千惠(日本藝術院会員、日展常務理事)。人物像がよく知られるが、東京と京都で開催される今展では、「花」が中心テーマとなる。新作展に寄せて、旧知の脚本家・監督がその魅力をひもといてくれた。

 

 

いつもはとても優しくて美しい千惠さんだけど、ふと何かをみつめたとき、どきりとするほど強い眼差しを感じることがある。私は彼女のその眼差しがとても好きなのだ。

 

誰のものでもない自分の目というものをとてもたいせつにしている方ではないのか。そんなことをいつも感じる。

 

日展でみる人物画は力強さに満ちている。けれども花の絵にはまた違ったおもむきに酔わされる。男性の描く花が外側から見つめることによって成立しているとすれば、千惠さんの花は内側から描かれているとでもいったらいいのだろうか、花と一体化しているような息づかいを感じる。

 

私が千惠さんのお名前を心に刻み付けられたのはもうずいぶん以前のことだが、花の素描であった。紙がどんどん張り合わされて壁いっぱいに花々がのびていく。紙面からはみ出していく花自身の生命観に描き手の命が重なる思いに圧倒され私はこの画家に心を奪われた。その時はまだお話をしたこともなかったのだが、やがて四、五人のグループでお食事などするようになった。

 

「大地の情熱」96.5×162.0cm

「大地の情熱」 96.5×162.0cm

 

そして私は『清姫』をみせてもらった。画面には紅の牡丹が描かれ、『清姫』の題名がつけられていた。私は一瞬ぐっと心臓をつかまれたような気持ちになった。じつはこの頃私は『娘道成寺』の映画をいつの日か撮れたらと思っていたのだ。千惠さんも清姫の情熱を求めているのかと思うとうれしくなり、それを牡丹の花を描くことで表現されていることにとても鮮烈な印象を受けたのである。そして私は伝統や約束事のロープからすこし解放されていた。数年後、私は『娘道成寺』の映画を監督する機会を得たが、そのとき私のなかには絶えず紅牡丹の『清姫』があった。

 

このたびの髙島屋の展覧会では花を中心に構成されているときく。再びどんな花々に出会えるのかと心がおどる。

 

千惠さんは数々の受賞を経て日本藝術院会員に就任された。輝く栄光ではあろうがその階段はどれほどのご苦労だったかと思う。けれどもたおやかで少女のような千惠さんには戦いの片鱗は感じられない。そんな魔法のような秘密を私も学びたいと思っている。

 

【会期】 2013年6月19日(水)~25日(火)

【会場】 髙島屋日本橋店6階美術画廊(東京都中央区日本橋2―4―1)☎03―3211―4111

【休廊】 無休 【料金】 無料

【巡回】 2013年7月3日(水)~9日(火) 髙島屋京都店6階美術画廊

 

「新美術新聞」2013年6月11日号(第1314号)1面より

 

 


関連記事

その他の記事