凛として、しなやかに。
女性芸術家の活動の軌跡をたどる
比戸奈津子(名古屋ボストン美術館学芸員)
あらゆる分野で女性の活躍があたりまえとなっている現代。しかし芸術の世界では、近代まで男性が主流を占めていた。そのような時代においても、プロフェッショナルとしての創作活動を貫いた女性芸術家がいた。彼女たちは、肖像画、風景画といった絵画だけでなく、装飾美術の分野でもその才能を発揮してきた。本展は、ボストン美術館珠玉のコレクションより絵画、陶磁器、ジュエリーなど多彩な79作品を紹介し、女性芸術家の活動の軌跡をさまざまな視点でたどるものである。
華やかな装いでこちらに微笑みかける女性(図1)。18世紀にフランスで活躍したヴィジェ=ルブランはこのような女性の美しい肖像画を得意とし、フランス王妃、マリー・アントワネットをはじめとした宮廷女性に絶大な人気を博した。彼女の成功と活躍は後の世代の女性画家のお手本となっている。続いて紹介するのは、描かれた女性画家の姿(図2)。彼女は、両手に絵筆やパレットを持った制作中の姿で、表情は画家としての自信に溢れている。また光沢のあるサテン地のスカートや豪華な宝飾品は、女性らしい華やかさも伝えている。一方、女性画家ヘールの自画像では、挑発的な視線と黒を多用した大胆な色づかいが印象的だ(図3)。慎ましさや華やかさは感じられず、画家であることへの強い自己主張に満ちた作品である。
女性は19世紀後半まで、公の学校で裸体モデルのデッサン指導が受けられず、風景画を描くための外出もままならなかった。そのような環境において、子どもや家族などの身近な人物を描き、自宅の庭先を描き、身の回りの品々を描くことで、女性は女性らしい視点で描くものを選び、画家として認められていった。
また本展では、装飾美術の分野における女性の活躍も紹介する。19世紀後半のイギリスで起こったアーツ・アンド・クラフツ運動は、アメリカとくにボストンで大きな展開を見せた。食器やジュエリーなど、女性にとって身近なものへのデザインに、女性が才能を発揮し、女性主導による工房も数多く設立された。
19世紀から20世紀にかけて時代の移り変わりとともに、女性を取り巻く環境もめまぐるしく変化していった。彼女たちが生きた時代背景とともにそれぞれの作品を見てみると、その輝きはいっそう深みを増す。凛として、しなやかに、時を超えて現代の人々をも惹きつける作品の魅力にぜひとも触れていただきたい。
【会期】 2013年5月25日(土)~9月29日(日)
【会場】 名古屋ボストン美術館(愛知県名古屋市中区金山町1-1-1)☎052-684-0101
【休館】 月曜、ただし祝日・振替休日の場合はその翌日
【開館時間】 10:00~19:00(土・日・祝・休日は17:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1200円 シルバー・学生900円 中学生以下無料
【関連リンク】 名古屋ボストン美術館
「新美術新聞」2013年6月1日号(第1313号)1面より