日本藝術院会員で、日展顧問の彫刻家・雨宮敬子(東京生まれ、日本彫刻会常務理事)。創作活動60年となる今年、女性像や少女像を中心とした約40点による個展が開催される。同じく日本藝術院会員であった父・治郎、弟・淳の作品も併せて展示される。
雨宮敬子彫刻展について
瀧悌三(美術評論家)
雨宮敬子先生、8年ぶりの個展である。従来、4年ごとに大がかりな近新作展を行ってきたのに、大分間が空いた。身辺多事、色々多くて、その余裕がなかった、というのが正直な処だろう。
間が空いたせいで、内容も従来にない幾つかの特徴が認められる。出品作が、旧、近、新と範囲の幅が、やや広くなっている。「旧」では、1980年代の潮展に出品し、中原悌二郎賞優秀賞に挙げられた「生成」や、彫刻日動展に出品の「旅立ち」があり、生涯の代表作とも言うべき「間(はざま)」もあって、この「間」は1900年代最後の日展出品作。「近」は2000年代で、日展、日彫展ここ数年の出品作――「有意心象」「雲に聴く」「遙光」(以上日展)に「夏」「水光る」「思索自省」(以上日彫展)等々。そして日韓現代美術展に出品の「思索平成」も並ぶ。
「新」は、総じて小品ながら、日展、日彫展以外の、別途依頼されての不定期制作に因むのが多い。それらはまた、従来の敬子先生が作って来なかった方面、つまり裸婦以外だから珍しい。聖観音像、七五三の子供、赤児、袴着の和服婦人、母子、上着ズボン姿で歩む少女等がそれだ。仏像以外は、世態風俗に触れ、身辺の生活を感じさせる。自分の内面を見つめて精神美を追求する従来と異なり、外部に向けている観察眼がこれらにはある。そこが、この作家の心境の、新しさの露頭というものであろう。
裸体の小品も、男性のそれが見られたり、青春を思わせたりと、幾分若い世代に対象が移っている。それもまた目新しさだ。そしてどれもがこの作家らしいほのぼのした温かい情感に満ちている。
今回の副題「澪標記に寄せて」について言うと、「澪標記」は敬子先生の父君治郎氏を中心とする雨宮家の紀伝体の史書である。不肖瀧がこれを執筆。内容は治郎氏の祖父、父から、治郎氏当人、妻、長女敬子、長男淳と四代六人に渡る列伝。そのうち治郎、敬子、淳の三人が彫刻家、いずれも藝術院会員である。この書は、敬子先生が父の事跡を伝える文献資料が乏しいのを遺憾として、考慮発案し実現をみたもの。目下刊行に至っている。
そういう事情のせいで、今回の個展には、治郎、淳両氏の作品も出陳されている。そこでさらに付記すれば、治郎氏は、典型的な官展彫塑のリアリズム作家。とりわけスポーツマンの生き生きした姿と精神性の表現に長じていた。淳氏は近年の物故、青春期の匂やかな女性の理想美を追求、その浪漫的情趣は、周知と言っていいであろう。
【会期】 2013年7月6日(土)~15日(月)
【会場】 和光ホール(東京都中央区銀座4-5-11 和光本館6階)☎03-3562-2111
【休館】 無休 【開館時間】 10:30~19:00(最終日のみ17:00まで)
【料金】 無料
【関連リンク】 和光
【関連記事】 雨宮敬子「遙光」
「新美術新聞」2013年7月1日号(第1316号)1面より