【概要】 漢字と仮名が調和した日本独自の繊細、典雅な「和様の書」を通じて、書の魅力と書に関わる多様な日本文化を紹介する。三跡の書、四大手鑑、信長・秀吉・家康など天下人の自筆、「高野切」はじめ古筆の名宝、また先般、ユネスコの世界記憶遺産に登録された藤原道長の「御堂関白記」など、歴史上の名筆156件が展示される(内、86件が国宝・重要文化財)。※作品の一部に展示替え有り。
和様の書の多様な展開と書の魅力
島谷弘幸(東京国立博物館副館長)
今年の夏、東京国立博物館では特別展「和様の書」を開催いたします。
和様(わよう)とは、日本の風土、国民性に合った日本独自の文化をさす言葉です。そして、和様の書とは、中国風な書に対して、日本風な書のことを指しています。日本には独自の文字がなかったので、中国から書を学び、そして発展させてきました。すでに、早くも5世紀には日本人の人名表記に漢字を借りての表記が見られます。こうした音仮名、訓仮名は『万葉集』に多く用いられたことから万葉仮名と呼ばれます。
平安時代中期になり、制度や文化も次第に日本に合うように和風化が進みます。この頃に活躍したのが小野道風・藤原佐理・藤原行成の三跡で、この三人を中心として書の世界は日本的な和様の書へと変貌していきました。行成の「白氏詩巻」などに見られるように、和様の書の特徴は、筆がやや右に傾くような筆法で執筆され、転折の部分は比較的軽く曲線的で、柔和で優美な書風です。
三跡の時期と平行しながら、草仮名を経て平仮名が成立し、「高野切」に代表される日本独自の仮名の美が展開することになります。これは、すべてが仮名で書写されるものではなく、まさに真名(漢字)と仮名の融合した美です。
藤原行成の一系は、代々が宮廷の書役を勤めたこともあって、日本の書の歴史を語る上で極めて重要です。以後、中国書法の大きな影響を受ける時期もありましたが、終始、日本の書は和様の書が中心をなして展開していきます。
室町時代になると道徳の観念と芸事が結びつき、茶道や華道などとともに型にはめての書(書流)が流行し、書道という言葉も生まれます。続く、安土桃山から江戸初期には、江戸初期の三筆(近衞信尹・本阿弥光悦・松花堂昭乗をはじめとするダイナミックで個性的な書が生まれ、大きな書風の転換がみられます。
この展覧会は、こうした和様の書の展開を通じて、書の魅力を紹介します。出品される作品は、すでに述べた典麗優美な和様の完成を示す三跡の書や古筆を中心に、「平家納経」などの写経、「平治物語絵巻」などの絵巻、近衞信尹と長谷川等伯の「檜原図屏風」や宗達派と本阿弥光悦の「四季草花下絵和歌巻」のように絵画と書のコラボレーション作品、加えて焼物、漆、金工、染織と書の合作など多様な美術作品が東京国立博物館に大集合します。各時代の美を追求する能書が残した美しい文字を鑑賞するまたとない機会です。好きな書を見つけにお出かけください。
【会期】2013年7月13日(土)~9月8日(日)
【会場】東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9) ☎03-5777-8600
【休館】月曜、ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月)は開館、7月16日(火)は休館
【開館時間】 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで) ※金曜日は20:00、土・日・祝日は18:00まで開館
【料金】一般1500円 大学生1200円 高校生900円 ※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料
【関連リンク】東京国立博物館
「新美術新聞」2013年7月11日号(第1317号)1面より
【展示風景】