物語や詩歌のイメージを喚起
中尾優衣(京都国立近代美術館研究員)
鈴木治(1926-2001)は、千家十職の永樂工房で轆轤(ろくろ)職人をしていた鈴木宇源治(うげんじ)の三男として京都の五条坂に生まれました。早くから父に轆轤の手ほどきを受けていた鈴木は、戦後、本格的に陶芸家を志します。1948年には、八木一夫、山田光らとともに、陶芸による新しい表現を目指して「走泥社(そうでいしゃ)」を結成し、次第に器としての用途を持たない純粋な立体造形の作品を制作するようになります。彼らの前衛的な作品は、当時の人々に驚きをもって迎えられ、1950年代の華道界の新しい動向が「オブジェいけばな」と呼ばれたのと同じ文脈で、「オブジェ陶」あるいは「オブジェ焼」などと呼ばれました。
しかし、あくまでも土と火による造形を追求し続けた鈴木は、自分の作品が「オブジェ」と呼ばれることを好まず、作品名として「泥像(でいぞう)」、のちに「泥象(でいしょう)」という言葉を用いるようになっていきます。鈴木の作品は、赤い化粧土を施した焼締めと、みずみずしい色合いの青白磁という主に二つの技法によって制作されています。馬や鳥などの様々な動物や、風や雲などの自然現象のイメージが、鋭い造形感覚によって存在感ある「かたち」として表現されました。
展覧会のサブタイトル〈「使う陶」から「観る陶」、そして「詠む陶」へ〉は、90年代の鈴木自身の言葉からとったもので、作品を理解する上で非常に重要な言葉だといえます。その作品は、日常の暮らしの中で使う器(「使う陶」)や自己表現のための陶芸作品(「観る陶」)だけでなく、「詠む陶」で独自の展開を見せています。「詠む陶」とは、作品の形と作品名、そして観る側のイメージの世界が互いに呼応することで、陶芸を通して観る者一人ひとりに物語や詩歌のイメージを喚起することができないか、という試みであり、陶芸のあり方に新たな可能性を示しました。
本展は鈴木治の没後初となる大規模な回顧展で、初期作品から晩年の未発表作品まで含む約150点によって、作者が到った〈「使う陶」から「観る陶」、そして「詠む陶」へ〉の足跡をたどります。没後10年を経てもなお色あせることのないその作陶の輝きをご覧いただければ幸いです。
【会期】 7月12日(金)~8月25日(日)
【会場】 京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)☎075-761-4111
【休館】 月曜
【開館時間】 9:30~17:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1200円 大学生800円 高校生400円 中学生以下無料
【関連リンク】 京都国立近代美術館
講演会「鈴木治の陶芸」
【日時】 2013年7月27日(土) 14:00~15:30
【講師】 中尾優衣(同館研究員)
【会場】 京都国立近代美術館1階講堂
【料金】 無料、定員100名
講演会「鈴木治:陶の造形詩人」
【日時】 2013年8月10日(土) 14:00~15:30
【講師】 太田垣實氏(美術評論家)
【会場】 京都国立近代美術館1階講堂
【料金】 無料、定員100名
「新美術新聞」2013年7月21日号(第1318号)1面より