故郷を主題にした芸術家の想い
三澤新弥(安曇野髙橋節郎記念美術館学芸員)
安曇野髙橋節郎記念美術館は、2003年6月に開館しました。髙橋節郎作品の常設展示のほかに、年1回の企画展で、髙橋にゆかりのある芸術家の作品を紹介してきました。10回目の企画展となる今回は、髙橋が受章した文化勲章に注目し、同じく長野県出身で文化勲章を受章した画家小山敬三との二人展を開催します。
小諸に生を受けた小山敬三(1897-1987)は画家を志し、川端画学校で藤島武二に、第1次大戦後のパリでシャルル・ゲランに師事しています。1920年代のパリでは、エコールドパリと称される画家たちが個性的な作品を制作していました。小山はここで、日本で流行していた印象派の画風や前衛的なパリの画家達の作風になびくことなく、伝統的な画風を学びました。ゲランはアカデミックな画家からも一目置かれた存在で、小山はここで基礎的な技法を徹底的に学びました。やがて小山はフランスにおいて画家として認められていきます。帰国後は中央の展覧会で活躍し、二科会脱退後、一水会の創設に加わっています。
安曇野に生まれた髙橋節郎(1914-2007)は、大正デモクラシーの名残の残る自由な一時を東京美術学校で過ごし、同時に二科会研究所に通い、熊谷守一、有島生馬、石井柏亭等にデッサンや油絵を学びました。また、日本の画壇にも影響を及ぼしてきたシュールレアリスムの作品、とりわけ古賀春江の作品に親しみました。伝統的な漆芸作品を制作し官展に出品していた髙橋は、戦後、伝統的な漆芸の枠に納まりきれない表現を追求します。
髙橋の詩「穂高の四季」には、「故郷は永遠に美しく いつの日も故郷を想い 故郷を愛で そしていつの日か 人はそれぞれに 故郷に回帰するであろう」という一節があります。やがて、髙橋は生涯の作品のモチーフに、故郷の原風景や幼少時の体験に起因する事物を選びました。ここには青年時代に親しんだシュールレアリスムの影響が如実に現れています。故郷の星空や遺跡を題材とした作品は、単色の色彩と確実な技法の下で、より幻想的に独自の世界を表現しています。髙橋は、伝統的な漆芸の世界を、現代的な芸術の領域に開拓した功績を評価され文化勲章を受章しました。
独特の色調と大胆な構図で描かれた浅間山は、小山敬三の故郷の象徴的な存在であり、噴火を繰り返し静まることの無いこの山は、小山の精神世界の形成に大きな影響を及ぼしたことは想像に難くありません。小山敬三は一連の浅間山の作品や白鷺城の作品が高く評価され、日本の洋画の水準を飛躍的に向上させたとして文化勲章の受章に至っています。
このたびの展覧会では、日本の美術界に大きな功績を残した二人の芸術家の作品を紹介します。故郷を主題に作品を残した二人の芸術家の想いに触れることが出来たなら幸いです。
【会期】2012年7月14日(土)~8月26日(日)
【会場】安曇野髙橋節郎記念美術館(長野県安曇野市穂高北穂高408-1)
☎0263-81-3030 【休館】月曜 【開館時間】 9:00~17:00
【料金】一般600円 高校生・大学生400円 中学生以下・70歳以上無料
【関連リンク】安曇野髙橋節郎記念美術館 公式ホームページ
記念講演会「小山敬三とその作品」
7月29日(日) 14:00~16:00
【講師】 星野良史(元・長野県信濃美術館学芸員)
【料金】 無料 ※事前予約不要
「新美術新聞」2012年7月21日号(第1286号)1面より