二紀会を代表する山本貞、藪野健、山本文彦らから、将来を嘱望される一般入選の若手作家まで、多彩な新作が集う「われらの地平線」。2年目となる今年も、秋の本展とは一味異なる力作が、絵画部・彫刻部の約50作家より出品される。今展の意義について、美術評論家・岡部昌幸氏の論よりおくる。
美術団体の明日を切り拓く試み
―新世代に伝える熱き思いと夢
岡部昌幸(帝京大学教授/美術史・美術評論)
20世紀は戦いと動乱の時代であったが、21世紀の現代はそれ以上にグローバルで、新しいテクノロジーが駆使された激動の時代となるに違いなく、美術も同様である。世界市場における現代アートのめざましい発展、無数の美術館の新設と企画展やプログラムの充実、インターネットの普及と美術メディアの変遷。美術界といえば、既成の画壇のみで、発表は限られた美術館での公募展と百貨店・画廊での展覧会が主体であった30~40年前、そうした現況を、いったい誰が予想しえただろうか。
そうした不透明なカオス(混沌)のなかで、新しい洋画の光明を開き、模索する意欲的な画家を輩出する「二紀会」とは何者なのか。日本の近代美術史をふりかえると、その活性化の原点が見える。近代美術の活性化の原点は1874年、新しい様式と表現を求め、サロンに反旗を翻しアヴァンギャルドを起こした印象派だったことはいうまでもない。日本でそれに比肩できる運動は、大正3年(1914年)文展から、自由を求め分離し決起した若い画家たちによる二科会であった。そうした激しい爆発力が基盤にあるため、強いマニフェスト(宣言)が掲げられたのである。
戦前の旧・二科会の中核にいたのは、東京美術学校西洋画科の最初期の入学で異端の天才・青木繁を親友として支えた正宗得三郎と熊谷守一、西洋から前衛的な画法を学び取った中川紀元、安井曾太郎とともに京都の浅井忠の系譜を受け継ぐ黒田重太郎、そして安井の指導を受けた新世代の鬼才宮本三郎。彼ら9名が、1947年(昭和22年)に、新しい紀元を期して、純粋な制作のため結集したのが「第二紀会」、現在の二紀会だった。
全国に新しい才能を見出し、学閥や師弟関係でもなく、真の友情と信頼で立ち上がり、その後、人材発掘に努めた会の歴史は、戦前の旧・二科会の伝統を受け継いでいる。会の中枢が日本美術家連盟の要職を兼ねてきたことは、いかにこの団体が日本全体の美術界の発展に尽くしてきたかもわかる。創立から現在にいたるまで、在野から苦労して美術を極めた宮本三郎の薫陶を受けた画家たちがしっかり今日を支えていることは違いない。
芸術は個人の表現であり、世界観である。しかし、芸術家は、歴史的な展開と、美術全体の世界的視野と動向を見極め、次の世界を作りあげる使命ももっている。この会の巨匠たちの系譜と新しい世代との両岸の絵画世界から懸け橋をかけようと試みるこの展覧会の今後は、きわめて意義が高く、注視すべきだ。
問題は、会の創設に起源を持つその声を、メッセージを、明日の世代となる若い画家たちが、自身の芸術と今後の美術界のために、いかに傾聴し、受け止め、動き出すかである。その意味で、規模の大きさ以上に、偉大なる実験の場ともいえる。新たな地平に、新星の光明が輝く夢をともに見たい。
出品作家
【絵画】
委員:山本貞、藪野健、山本文彦、佐々木信平、立見榮男、井上護、遠藤彰子、北村真、滝純一、玉川信一、難波平人、南口清二、清水聖策、生駒泰充、板倉美智子、今井充俊、北久美子、佐久間公憲、高取克次、松尾隆司、吉岡正人
会員:柏本龍太、日下部直起、塩谷亮、中村智恵美、仏山輝美
準会員:今林明子、鈴木良治、高橋勉、立石真希子、田中章惠、濵田尚吾、久間啓子、平野良光、星美加、美浪恵利、山田和宏
一般入選者:青木千賀子、塩月悠、原田圭、山田婦紀子
【彫刻】
委員:米林雄一、石川幸二、恩田静子、細野稔人
会員:飯村直久、真海朗、林佐和子
【会期】 2013年8月7日(水)~13日(火)
【会場】日本橋三越本店本館6階美術特選画廊(東京都中央区日本橋室町1―4―1)☎03-3241-3311
【休廊】 会期中無休 【料金】 無料
【関連リンク】 三越の美術|日本橋三越本店
出品作家によるギャラリートーク
【日時】 2013年8月10日(土) 14:00~
【会場】 展覧会場
「新美術新聞」2013年8月1・11日号(第1319号)1面より