テラコッタによる具象的な人物像から、空間性を意識した表現までを包括する彫刻家・北郷悟(1953年福島県いわき市生まれ、新制作協会会員、東京藝術大学教授)。佐藤忠良、舟越保武に師事し、数々の個展・グループ展へ出品、「倉吉・緑の彫刻賞」(2006年)など受賞も数多く、初期より高く評価されてきた。
70年代は明確にモデルを思わす頭像なども存在するが、しだいにその表現はある種の無名性―「わたし」であり「あなた」でもある表情へ向かう。記憶をたどり、粘土との「対話」から人間の本質へ迫ろうとしてきたからこそ獲得された表現だ。80年代後半からは人間と自然の関係、自然の構造が探られ、思索的でありながら美しさの際立つ作風へ。その延長に、今回の「水のまなざし」が連なる。
生命の循環である「水」のテーマは、大作「announcement-water」へと結実した。「告知」の意からは先の震災を想起させ、同時に「announcement」は受胎告知も思わす。静謐な作品に「生」と「死」、双方のイメージが浮かぶ。掲出の「蒼い山」は、腕のかたちに山脈の威容を見いだせる。詩的な感性が生み出す新たなイメージ。北郷の真骨頂である。
日本橋三越では4年ぶりとなる今展にて、深まりゆく造形思想が示されることだろう。新作を中心とした約25点が出品される。
【会期】 2013年9月4日(水)~10日(火)
【会場】日本橋三越本店本館6階美術特選画廊(東京都中央区日本橋室町1-4-1)☎03―3241―3311
【休廊】 会期中無休 【料金】 無料
【関連リンク】 三越の美術|日本橋三越本店
「新美術新聞」2013年9月1日号(第1321号)1面より