【日本橋】 ―海へ― 宮田亮平展

2013年10月04日 18:53 カテゴリ:日展

 

金工作家で東京藝術大学長を務める宮田亮平(1945年新潟県佐渡生まれ、日展理事、現代工芸美術家協会常務理事)の個展が開催される。イルカの躍動する姿をモチーフに2012年日本藝術院賞を受賞した代表作「シュプリンゲン」、イルカの穏やかな一面に着想した近作「生と静」、さらには香炉、壺など造形作品約100点が展示される。近年、バハマやパラオの海に潜り自然のイルカに出合った体験が新たなイメージづくりに繋がっているという、その制作秘話を中心にお聞きした。

 

「シュプリンゲン」から「生と静」へ

 

「シュプリンゲン ― 雲」 H49×W80×D18cm アルミニューム・金銀箔
©江﨑義一

 

―サブタイトル「海へ」に込めた思いとは

 

宮田:いろいろ考えたんですが、シンプルに「海へ」としました。「皆で海へ行こう」ですとか、次に続く言葉は会場に来て頂いた皆さんが想像して、楽しんで下さればと思います。むしろ見て頂くというよりも一緒に泳いでほしいですね。

 

これまでは船の上から、あるいは飼いならされたイルカを見てきたんですが、昨年バハマでシュノーケリングをして、イルカと泳いだんです。水深3メートルより下の海域では、我々が知っているようなスピードで泳いでいるのではなく、ゆったりとしていたんです。海面ではかけっこばかりしているようですが、考えてみれば人間でも歩いたり、走ったり、立ち止まったりしていますよね。

 

さらに、イルカの親子に出合った時に、子供のイルカが私に興味をもって近づこうとすると、母親がそっちへ行っては駄目だよと抱きかかえるような仕草をしたり、終いには親子と一緒に泳いだり、という体験をしたんです。

 

この経験から、「シュプリンゲン」(飛翔)というシリーズから「生と静」というテーマによる作品づくりが始まったんです。と言いながら、躍動感のあるイルカは好きなんです。人間もいつも躍動している訳ではなく、溜めがあっての躍動であり、苦しみがあっての感動だとか、いろいろあっても最後にはすべてが喜びになるようなものを創る。そのために、最近はイルカという形を借りている、という感じでしょうかね。

 

「生と静」 H57×W97×D36cm アルミニューム・金銀箔

 

イルカそのものの姿からしますと、私のイルカは全然違うんです。バハマで出会ったイルカの造形作家にも「宮田のイルカはイルカから受けた印象を形づくっているんだね」と言われました。今年はボンベを背負いパラオの海へ潜ってみると、潜れば潜るほどすべての時間がゆっくりと動いているんです。ギンガメアジなどが何百匹も大群で来るんですが、ゆっくり泳いでいて、瞬間的に何かがあると、パッと群れが方向を変えるんです。躍動と静寂が非常に面白く、貴重な体験でした。

 

 

―その経験は作品づくりにどのように表れているのでしょうか

 

宮田:今は上層、中層と海面に近いところに意識がありますが、この後は段々、深いところへ行った時に、どのようになるのだろうか、という思いがありますね。自分のなかではある程度イメージは出来るのですが、人様に見て頂くには熟成していないとならないので、直に形になるものと、形にはなるが自分の作品にはならないと、捨ててしまうものがあります。自分の作品に対する責任というのでしょうか。誰が見ても、宮田の作品だ、と言ってくれるものを創りたいですね。

 

今展には3メートル強のシュプリンゲンを始め、香炉や水指など、また初めて壁面に飾れるものにも挑戦しました。立体といいますと、ぐるっと回って見られるのが面白い訳ですが、壁面では裏は裏という捉え方になるので、表現し切れたのか、という思いもあります。

 

 

―ご自身にとっての「海」「自然」への思いとは

 

作品に囲まれる宮田亮平氏

宮田:佐渡では潮騒を聞きながら育った者としては、自然は綺麗で恵みも豊かですが、反面怖さもあります。台風が来たときなどは、土地が波でさらわれたこともありました。日常では海の幸、生命を頂くという思いでしたね。海と空気の生命線というもののなかで、海から釣上げるということは、生命がなくなるということですが、確実に空気中の生命のなかに宿っていく、生命の循環がある、そういう場所です。

 

イルカも息継ぎをするために海面に出て、海中ではゆったりとしている姿を知ったなかで、海面というものをより強く意識するようになりました。お香でも、香りとともに漂う煙が生粋線とでもいいましょうか、最近は作品鑑賞における目線ということも意識しています。

 

また、人間が自然の一部として存在するなかで、我々はせめて自然はこんなに素敵なんですよということを、物づくりとして、そのきっかけをつくっていきたいですね。むしろ、それが仕事だと思わなければね。過去を振り返ってみても、技術や哲学はもちろん大切ですが、鑑賞者とともに息づきを共有できる作品に親近感を感じ、永く生き続けていく訳です。ですから、自然と共に息づいている作品を通じて、それぞれの間合いをつくれればと思います。

 

本年、富士山が世界文化遺産となり、2020年の東京五輪が決定したことで、今後、日本のスポーツ、文化、教育、ものづくりなどすべてが世界から注目されることでしょう。

 

―本日はお忙しいなか有難うございました。

 

 

―海へ― 宮田亮平展

「シュプリンゲン 月光」 H70×W97×D16cm 木・アルミニューム・金銀箔
©江﨑義一

【会期】 2013年10月9日(水)~15日(火)

【会場】 髙島屋日本橋店6階美術画廊(東京都中央区日本橋2―4―1)

☎03―3211―4111

【休廊】 会期中無休 【料金】 無料

【ギャラリートーク】 10月12日(土)14:00~

【巡回】

2013年10月23日(水)~29日(火)髙島屋横浜店

2013年12月4日(水)~10日(火)ジェイアール名古屋タカシマヤ

 

 

【関連リンク】 髙島屋の美術

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「新美術新聞」2013年10月1日号(第1324号)1面より

 


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