再評価進む いまだ知られざる画家
新畑泰秀(石橋財団ブリヂストン美術館学芸課長)
ギュスターヴ・カイユボットは、モネ、ルノワール、ピサロ、シスレー、セザンヌら印象派の仲間の作品を購入することによって、経済的に彼らを支えたほか、印象派展の開催などでも意見調整や経済支援などをおこなった人物として名を知られる。しかし、近年では、印象派画家としての活動にも関心が集まり、作品の再評価が進んでいるところだ。
カイユボットは、1848年、繊維業を営む裕福な事業家の息子としてパリで生まれ、ナポレオン3世による第二次帝政時代に上流階級が居を構えるようになったパリ8区、ミロメニル通りとリスボン通りが交差する邸宅で青年時代を送った。1870年に法律学校に学び法学士号を取得した後、1872年頃に19世紀後半を代表するアカデミーの肖像画家レオン・ボナのアトリエに通うようになり、翌1873年に官立美術学校(エコール・デ・ボザール)へ入学した。おそらくはボナの友人であったエドガー・ドガを通じバティニョール派の画家らと知り合った。1874年に最初の印象グループ展を開くのは彼らであった。こうしてカイユボットは、モネやルノワールなどを始めとした印象派の画家らとの交友を持つようになった。1876年の第2回印象派展以降、第6回、第8回以外の印象派展に参加し、以後、印象派の画家らを支援しながら自らも作品を精力的に制作した。
1894年のカイユボットの没後、遺言書により画家が所有していた印象派の画家たちの作品はルーヴル美術館へと寄贈されることとなっていたが、美術館当局やサロン画家らの強行な反対にあった。遺族やルノワールと美術館当局との2年にわたる交渉の結果、約半数の30点余りが受け入れられた。今日ではオルセー美術館へと移管され、同美術館の重要なコレクションとして収蔵されている。
近年では、こうしたカイユボットの活動と同様に彼自身の作品に注目が集まっている。観る者に現代性を強く喚起させるその作品は、印象派の主流に位置づけられながら、古典的な表現手法を遵守し、当時のアカデミスムの自然主義的表現とも通じる特異な位置を確立している。画題としては労働、家族、生活など近代的な都市生活を扱い、後年に手がけた風景画なども高い評価を受けるようになりつつある。
ブリヂストン美術館は2012年に開館60周年を迎えた。創設者石橋正二郎は、20世紀前半より日本近代洋画の収集をはじめ、第二次大戦後には印象派を中心とするフランス近代絵画や彫刻の収集を行い、それらが1952年の美術館開館時の核となった。本展は、日本における印象派を中心とするコレクションを美術館の核とするブリヂストン美術館が、開館以来半世紀を経て、新たに日本においていまだ知られざる画家ギュスターヴ・カイユボットを日本ではじめて紹介しようとするものである。
【会期】 2013年10月10日(木)~12月29日(日)
【会場】 ブリヂストン美術館(東京都中央区京橋1-10-1)☎03-5777-8600
【休館】 月曜、ただし12月16日、祝日のとき開館
【開館時間】 10:00~18:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1500円 シニア1300円 大高生1000円
【関連リンク】 ブリヂストン美術館
土曜講座「印象派の画家ギュスターヴ・カイユボット」
【料金】 400円 ※聴講券は事前販売。定員130名(先着)。
11月23日(土)「近代都市パリとカイユボット」 講師:坂上桂子氏(早稲田大学文学学術院教授)
11月30日(土)「印象派にとっての写真、写真にとっての印象派」 講師: 鈴木理策氏(写真家)×倉石信乃氏(明治大学教授)
12月7日(土)「印象派グループ展のなかのカイユボット」 講師:島田紀夫氏(ブリヂストン美術館館長)
12月14日(土)「都市の印象派、カイユボット」 講師:新畑泰秀氏(ブリヂストン美術館学芸課長)
「新美術新聞」2013年10月11日号(第1325号)1面より