【日本橋】 池口史子展

2013年11月15日 14:55 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

陰影深い画家の内的ヴィジョン

土方明司(平塚市美術館館長代理)

 

「赤い朝」2013年112.1×162.1cm

「赤い朝」2013年112.1×162.1cm

 

昨年、洋画壇の女流画家として初めて日本藝術院賞・恩賜賞を受賞し、さらに日本藝術院会員に就任した池口史子の近作・新作展。藝術院会員の推薦理由は、自然に対して熱意と畏敬の念を持って制作し、緊張感あふれ、詩情に包まれた独特な世界を描きだす点について。確かに池口さんの作品には、独特の乾いた叙情、あるいは覚めた情感が濃厚で、これが画面に緊張感と同時に不思議な詩情を生み出している。

 

「夕陽(大河のある)」2010年65.2×90.9cm

「夕陽(大河のある)」2010年65.2×90.9cm

様々な画風の変遷を経て、今ある画風にたどり着いたのは1990年代になってから。偶然出会った北米の荒野に点在する街に魅了された池口さんは、何かふっきれたように風景画に集中する。作品の多くは無人の貨物駅と倉庫を描いたもの。未明とも薄暮ともつかぬ束の間の光線が作品全体を包み込む。この特徴的な光の表現によって、描かれた情景は一気に非日常的な時空を現出させる。刹那と永遠が交錯する夢幻の世界である。現実の束縛を離れることによって生まれる不思議な世界。既視感に満ちたこの風景が見る者の心に強く訴えるのは、画家の内的ヴィジョンが極めて陰影の深いものだからである。

 

池口さんが私淑するエドワード・ホッパーは、自らの作品世界を特徴付けている風景を選択する理由として、自己の内的な経験を統合するためだ、としている。池口さんもまた自らが拠って立つ風景との邂逅により、風景を内面化させ、統合し、新たな心象風景を生み出した。言うまでもなく風景画の根本主題であるideal   landscapeとは理想的風景ではなく、自己のアイデンティティの問題に密接につながるものなのである。

 

「深まる秋」2011年162.1×227.3cm

「深まる秋」2011年162.1×227.3cm

先日この展覧会に先立って立軌会が開催され、新作の風景画が2点発表された。幻想的なトワイライトに覆われた画面は引き続き踏襲され、さらに、厳しく整序された構成が心地よい緊張感をもたらしている。できる限り感傷を削ぎ落とすことで成立する独特の孤絶感が、見る者に強い郷愁を感じさせる。今回は、原点となった北米の風景の他、パリ、ドイツ、プラハの風景画が出品される。また人物像、さらに花を描いたシリーズも出品される。生活感を漂白され、マヌカンのようなフォルムに還元された人物像は独特の存在感を放つ。花もまた色彩とフォルムを吟味することにより、生気と妖艶さを併せ持つ作品となっている。どちらも密かに不穏なものを隠し持っているようで興味深い。

 

【会期】 2013年11月20日(水)~26日(火)

【会場】 日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊(東京都中央区日本橋室町1-4-1)☎03-3241-3311

【休廊】 会期中無休

【料金】 無料

【巡回】 2013年12月18日(水)~24日(火) JR大阪三越伊勢丹6階美術画廊、2014年1月8日(水)~14日(火) 名古屋栄三越7階美術画廊

 

【関連記事】

日本藝術院平成24年度新会員に山﨑隆夫、池口史子、神戸峰男、井茂圭洞の各氏らが決定

現代洋画サミット11展 2013

THE・女流展 vol.2

 

「新美術新聞」2013年11月11日号(第1328号)1面より

 

 


関連記事

その他の記事