日本画壇を長年リードし、その存在感を強く示してきた4人の作家― 下田義寛、竹内浩一、田渕俊夫、牧進 ―が組んだグループ「星星會展」 の過去5回・10年間の成果となる意欲作約80点を一堂に結集した「日本画の伝統と未来へ 星星會」展が、東京はじめ4会場を巡回して開催される(北海道展は終了、9月6日~23日/道立近代美術館)。今後の日本画はどう展望されるのか、が伺える貴重な展覧会といえよう。これまで開かれた5回の展観を見続けてきた野地耕一郎氏にご寄稿を御願いした。
5回目を迎えた「星星會」に寄せて
日本画の日本画たるべき所以と次代への継承
野地耕一郎 (泉屋博古館分館学芸課長)
新春の東京に現代日本画の最高峰四人の作品が集結する。下田義寛、竹内浩一、田渕俊夫、牧進、四人によるグループ展だ。その名は「星星會」。名付けたのは、日本画家の故髙山辰雄(2007年に95歳で没)である。髙山がそれ以前に関わった「遊星展」や「草々会」というグループ展が現代日本画の最高水準を示し、そればかりか日本画の日本画たるべき所以と次代への継承がそこに託されていたように、彼が最後に命名したこの「星星會」にもその水脈が潺々と流れている。
会場を訪れるとまず、髙山の墨蹟「星星會」の題字を目にすることになるだろう。振動する大気を巻き込むようなその書体には力がこもり、気息の充満を思わせる。観る者にただならぬ気配と覚悟を感じさせる文字なのだ。それはまた、「創造の魂」としてメンバー四人にもびりびりと伝わっているはずのものだ。
その四人、田渕と下田はともに風景画に秀でた日本美術院(院展)の同人。川端龍子の主宰した青龍社で育った牧と、京都画壇育ちの竹内はいずれも花鳥画の名手、というベテラン画家たち。この展覧会は、そんな「星星會」のこれまで五回にわたる作品がすべて見られるというベスト・アルバムのような催しだ。
田渕俊夫の筆がつくりだす点描による増殖的リズムやその解像度の高さは、観る者の視線をそこに釘付けにする。自然の細かい部分までを見ようとする画家の醒めた視線は、息詰まるような風光の明滅をとらえて、とても魅力的だ。
そのことは、下田義寛の絵にもいえるだろう。版画的手法を応用した洗練を重ねた繊細な写実で、映画のワンシーンのようにゆらめく情感が彼の絵の特長だ。
それに対して、牧進の作品は、岩絵具の重厚な質感と墨の固有な調子による線描をひびかせながら、その合間に生じる緊張する空間が、その絵に唸るような息吹を吹き込んでいる。
竹内浩一もまた、絵具を慈しむように洗練を重ねた緻密な写実によって、花鳥の優美を捉えている。緻密な筆致によって空間をつくりながら微光の中に移ろう生命の韻律をすくい捕る手法は決して派手ではないが、自然のなかにあるものの存在の深度を増している。
彼らの絵に通底しているのは、眼の前にある特定の自然を契機にしながらも、実は描くべき自然は自分の内部にもあるのだという構えだ。芯にある自然観への奉仕、自己の内面に感応する自然とつながろうとする彼ら四人の流儀は、私たちに慰安と、そして未来に生きる者たちに指針を与えるものに違いない。
【会期】 2014年1月2日(木)~13日(月・祝)
【会場】 髙島屋 日本橋店8階ホール (東京都中央区日本橋2-4-1) ☎03-3211-4111
【開場】 10時~20時 ※1月2日(木)は19時まで、13日(月・祝)は18時まで (いずれも入場は閉場30分前まで)
【休み】 無休
【料金】 一般800円 大学・高校生600円 中学生以下無料 (新美術新聞1月1・11日号で「料金無料」とあるのは「料金一般800円」の誤りです。お詫びして訂正いたします。)
【主催】 星星會展実行委員会、日本経済新聞社、NHKプロモーション
【巡回】 2月8日(土)~3月2日(日) 松坂屋美術館 (松坂屋名古屋店 南館7階)、3月11日(火)~23日(日) 京都文化博物館、4月17日(木)~5月25日(日) 広島県立美術館
【開催中】星星會小品展-下田義寛・竹内浩一・田渕俊夫・牧進-
2013年12月25日(水)~2014年1月14日(火) 髙島屋日本橋店6階美術画廊 (1月1日休)
「新美術新聞」2014年1月1・11日合併号(第1332号)1面より