人間存在の根源を問う
島敦彦(国立国際美術館副館長)
工藤哲巳没後4年目の1994年に国立国際美術館で回顧展を開いてから20年となります。近年、フランスやアメリカで回顧展が開かれ、ニューヨーク近代美術館に代表作が収蔵されるなど、工藤の仕事が国際的に注目を集めています。
工藤哲巳(1935-1990)は、大阪に生まれ、少年期を父の出身地青森で、その後、母の郷里岡山で高校までを過ごしました。東京藝術大学在学中から、読売アンデパンダン展で活躍し、篠原有司男や荒川修作らとともに「反芸術」世代の代表格となり、1962年の第2回国際青年美術家展での大賞受賞を機に、渡仏。パリを本拠にヨーロッパを中心に約20年、文明批評的な視点と科学的な思考とを結びつけた独自の世界を展開しました。
性や環境汚染、原子力、遺伝染色体など人間の生存に深く関わる根源的な問題やタブーに果敢に斬り込んで、近代ヨーロッパのヒューマニズム(人間中心主義)を、批判、攻撃し、挑発的な作品と刺激的なハプニングを通して、ヨーロッパを治療しようとしました。
眼球や鼻がトランジスタとともに養殖される器、男性器が小魚と一緒に水槽で泳ぐ作品、鳥籠の中で瞑想する異形の人間像など、工藤の作品はおぞましく不気味に見えるかもしれません。しかしそれは、悲惨な未来の地獄郷ではなく、そのようにしか生き残れない人間と自然とテクノロジーとが渾然一体となった、逆説的なパラダイスにほかなりません。
1980年代に入ると、たびたび来日し、講演やシンポジウム、パフォーマンスを盛んに行うかたわら、「天皇制の構造」や「色紙」の連作を発表し、1987年には母校の東京藝術大学の教授に就任しましたが、1990年に55歳の若さで他界しました。
今回の回顧展では、初期のアンフォルメル風の絵画をはじめ、読売アンデパンダン展出品作で赤瀬川原平が「最大傑作」と讃えた《インポ分布図とその飽和部分に於ける保護ドームの発生》(1961-62年)が50年ぶりに展示されるほか、工藤のトレードマークである鳥籠の作品群、欧米の美術館が所蔵する代表作が勢ぞろいします。すでに大阪会場は終了し、東京、青森に巡回します。日本では20年ぶり、東京では初めての大回顧展です。お見逃しなく。
【会期】 2014年2月4日(火)~3月30日(日)
【会場】 東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)☎03―5777-8600
【休館】 月曜(3月24日は開館)
【開館時間】 10:00~17:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般850円 大学生450円 高校生以下および18歳未満、障害者手帳などを提示の方とその付添者(1名)無料
【巡回】 2014年4月12日(土)~6月8日(日) 青森県立美術館
【関連リンク】 東京国立近代美術館
講演会
①堀浩哉(美術家、多摩美術大学教授)
【日時】 2014年2月22日(土) 14:00~15:30
②沢山遼(美術批評)
「工藤哲巳―自動生産の工学」
【日時】 2014年3月1日(土) 14:00~15:30
③中嶋泉(美術史家、明治学院大学研究員)
「工藤哲巳と草間彌生」
【日時】 2014年3月15日(土) 14:00~15:30
※いずれも会場は同館地下1階講堂、聴講無料、先着150名
ギャラリートーク
【講師】 桝田倫広(東京国立近代美術館研究員、本展担当者)
【日時】 2014年2月14日(金)・3月14日(金) 18:00~19:00
上映会
記録映画「脱皮の記念碑 工藤哲巳の記録」(1970年)
【日時】 2014年2月8日(土) 14:00~14:30
【会場】 同館地下1階講堂
※無料、申込不要、先着150名
「新美術新聞」2014年2月1日号(第1334号)1面より
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