【日本橋】 加藤豊彫刻展

2014年02月12日 14:52 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

 

「羽にのった運命」180×40×48cm

「羽にのった運命」180×40×48cm

人間を創造する芸術家

江口健 (公益財団法人 サトエ記念21世紀美術館 主任学芸員)

 

 

加藤豊彫刻作品展が日本橋三越本店本館6階美術特選画廊にて開催される。4年ぶりの個展となる本展は、大作から小品まで20余点の塑像作品により構成され、彫刻の魅力に満たされた会場となることであろう。

 

ギリシャ神話や旧約聖書の「創世記」によれば、神が土塊より人間を創造したとされる。深い闇の中から人間の形象が浮かび上がるかのように、加藤豊の彫刻も厳然と存在する。芸術家としての苦悩や試行錯誤の果てに創造された作品であるにもかかわらず、あたかも既存のフォルムであるかのように無垢であり、作者の泥臭い苦労や葛藤を感じさせない人間像が姿を現す。

 

彫刻家・加藤豊は1948年山形県鶴岡市に生まれ、神話的な女性像や愛くるしい子どもの姿などの彫刻作品を制作することで知られ、現在の日本を代表する彫刻家の一人である。加藤の真骨頂とも言える若き女性たちの作品群は気品と優雅さ漂う世界を感じさせ、子どもたちの連作は愛くるしい表情や仕草を湛え鑑賞者を郷愁の世界へと誘い、また、母子像や父子像からは安らぎに満ちた家族の情景を想わせる。多くのコレクターを魅了してきたのは、確かな技術に裏打ちされているだけではなく、俯瞰的な視野に立って多くの人々が理想とするイメージの創出に取り組んできたためであろう。産まれ出づる生命が幼少期を経て成人し、一つの家庭を築き、また新たな命を育む。女性の中に、連綿と紡がれてきた人類の営みと生命の神秘を見出し形象と化し、表象と化している。

 

「凝視する男」74×26×20cm

「凝視する男」74×26×20cm

他方において、近作では男性像が登場する。加藤が連作としてきた神話をモチーフとする作品とも思われるが、自身が生死の淵を彷徨ったためであろうか、自らの半生を投写するかのように、年輩の男性像は憮然とした決意を表情に浮かべると共に、哀愁と寂寥の感を帯びて立ち尽くす。女性や子どもたちの迸る若さや無邪気さの表現とは余りにも対照的であるからこそ、男性の力強くも悲哀に満ちた姿を感じさせる。人生と対峙しながら、固執して人間を創造し続ける芸術家の姿がそこにある。

 

【会期】 2014年2月12日(水)~17日(月)

【会場】 日本橋三越本店本館6階美術特選画廊(東京都中央区日本橋室町1-4-1)☎03-3241-3311

【休廊】 会期中無休

【開廊時間】 10:00~19:00(最終日のみ16:00まで)

【料金】 無料

 

「新美術新聞」2014年2月11日号(第1335号)1面より

 

 


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