「名画のあった場所」と「名画のある場所」
山田真規子
今日では「名画のある場所」といえば、白い壁面に、額縁に入った絵画が並んだ美術館を思い浮かべる方が多いのではないか。しかし、美術作品と呼ばれるものの中には、もとは建築物の一部であったり、身近な日用品として使用されていたものもある。
この度の展示は、こうした作品のもとの場所、つまり「名画のあった場所」に立ち返ることを目的としている。西洋の邸宅や施設に設置されていた壁画や、日本家屋の中で鑑賞されていた屏風や襖などを、できるだけもとの状態を再現もしくは分かる状態で解説・展示する。
例えば、小出楢重の「室内装飾のための7枚の静物画」は、神戸市の個人宅の応接間の戸口を飾るものとして制作された。そのため、1点ずつではなく、7点で戸口を囲むように展示するのが本来の姿である。額縁が八角形であることの理由も、戸口の角張った形状とのバランスで説明がつく。今回は、戸口を再現して展示を試みる。
三木翠山の六曲一双屏風「祇園会」は、畳の上で展示する。この作品自体、祇園祭の際に、町屋で屏風を飾って人々に見せる「屏風祭」という風習を描いている。いわば、「屏風祭」の「屏風祭」を展示室で再現する。
ポスターや書籍といった出版美術についてもとりあげる。本来消耗品であるこうした物は、美術館に収蔵されることで美術作品として扱われるようになるのだが、これはまさに美術館という「場所」の意味により、価値の変換が生じた結果である。美術作品とそれが設置される「場所」の問題、そして今「名画のある場所」である美術館とは何かという問題に迫りたい。
展示の中でも最大の見どころは、ポール・デルヴォーが1956年に完成させた、ブリュッセルにあるペリエ邸のための装飾壁画の一部を、壁と床の装飾を可能な限り再現して展示するコーナーだ。ペリエ邸は、今日では他人の手に渡ってしまい、扉部分のみは邸外に売却された。このうち3枚の扉が姫路市立美術館の所蔵となり、この度はヤマザキマザック美術館所蔵の1枚とあわせて展示する。一度は離れ離れになった旧ペリエ邸の作品が、海を越え、時を隔てて再会する貴重な機会となっている。
「名画のある場所」である美術館にとって、完璧な「名画のあった場所」の物理的再現は非常に困難なことである。それならば、美術館の存在意義とは何なのか。デルヴォーや小出の個人の邸宅の作品を例にとれば、その個人が住居を手放したり解体した段階で、作品を取りまく本来の空間は失われてしまう。しかし、邸外に出て美術館に入った作品は、ここで新たな生を授かる。そしてこれを守り、今度は公共のもとしてより多くの人に見てもらうのが、美術館としての使命なのだ。
(姫路市立美術館学芸員)
【会期】 4月12日(土)~6月1日(日)
【会場】 姫路市立美術館(兵庫県兵庫市本町68-25) ☎079-222-2288
【休館】 月曜、5月7日(水)、ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
【開館時間】 10:00~17:00 (入室は16:30まで)
【料金】 一般 800円(600円) 大学・高校生 500円(400円) 中学・小学生 200円(100円) 65歳以上 1000円(800円) ※()内は20人以上の団体料金
【関連リンク】 姫路市立美術館
「新美術新聞」2014年4月11日号(第1341号)1面より