幅広い業績再発見する機会に
三澤新弥 (安曇野髙橋節郎記念美術館学芸員)
本年は髙橋節郎の生誕百年の節目の年にあたる。これを記念し、髙橋の故郷 安曇野に建つ髙橋節郎記念美術館、豊科近代美術館の両館を使い「生誕百年 髙橋節郎展」を開催する。
この展覧会を準備するにあたり、あらためて髙橋節郎が生涯に生み出した作品を見直す作業を行った。数多くの図録にあたってみると、時系列に整理されたものが少なく、全体像がつかめない。この機会に製作する図録は、この展覧会に出品する作品にとらわれず、主な活動の場となった日展と日本現代工芸美術展への出品作の網羅を目標とした。
作品を時代ごとに並べると、作家の作風の移り変わりがはっきりと現れてきた。初期の色漆を多用した実用性を備えた作品は、当時流行したアール・ヌーヴォー調の様式を踏まえ、戦時下の表現の制約をうけながらも、可能な限りのモダンな意匠を施し、今なお古びない作品となっている。
戦後の表現の移り変わりも興味深い。時にはピカソのキュビスム作品のような人体表現、時にはデルヴォーの絵画に描かれるような女性像、時には絵本の世界のようなメルヘンな表現。叩きつけたような荒々しいマチエールを備える漆パネルもあれば、アンフォルメルの作家の作品のような印象を放つ漆絵版画もある。同じ作家が同時代に制作したと考えにくい表現の模索の時代を経て、髙橋節郎の作風は、独自のシュルレアリスム風の作品へと方向を定める。色鮮やかであった画面は、黒と金のモノクロームな世界へと変わっていった。現代工芸美術家協会を牽引し、さらに、東京藝術大学の教授となり、後進を育てる立場となる中で、自らも工芸のみならず芸術への考えを深化させ、次々に新たな漆の可能性を具現化させていった。漆黒のパネルを大空に見立て、満天の星空に見た幻想、あるいは、伝統に回帰したような松や月を主題とした屏風に描かれた、地中に眠る古代の事物への憧憬は、少年時代の故郷の記憶に通じている。さらに安曇野から望む峻厳な山脈を象徴的に配置し、時空を超えた故郷の原風景を表現している。髙橋の芸術はここで完結しない。晩年には、さらに柔らかな形態を思わせるような不思議な立体に取り組む。年齢を重ねるごとに、飽くなき挑戦を続けていったのだ。
この展覧会は、安曇野の2館で同時開催した後、豊田市美術館 髙橋節郎館、長野県信濃美術館に巡回する。髙橋節郎の幅広い業績を再発見する機会となれば幸いである。
【会期】 2014年4月26日(土)~6月1日(日)
【会場】 安曇野髙橋節郎美術館(長野県安曇野市穂高北穂高408-1)☎0263-81-3030/安曇野市豊科近代美術館(長野県安曇野市豊科5609-3)☎0263-73-5638
【休館】 5月7日(水)、12日(月)、19日(月)、26日(月)
【開館時間】 9:00~17:00
【料金】 一般700円 大高生400円 中学生以下・70歳以上無料 ※2館共通券
【巡回】 2014年7月12日(土)~9月15日(月・祝)豊田市美術館 髙橋節郎館、12月13日(土)~2015年1月12日(月)長野県信濃美術館
【関連リンク】 安曇野髙橋節郎美術館 安曇野市豊科近代美術館
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「新美術新聞」2014年5月1・11日号(第1343号)1面より