音と光で閉ざされた記憶の領域を照らし出す―
チェンマイを拠点に活動している現代美術作家、アピチャッポン・ウィーラセタクンによる新作展がSCAI THE BATHHOUSEで開催されている。ウィーラセタクンは1970年バンコク生まれ。コーン・ケーン大学で建築学を学んだ後に渡米。シカゴ美術館附属美術大学にてビジュアル・アート(映像)の修士号を取得。2008年に第55回カーネギー・インターナショナル、シンガポール・ビエンナーレに、2013年にはシャルジャ・ビエンナーレ、ドクメンタ(13)など代表的な国際芸術展に参加している。また2010年には映画監督として、第63回カンヌ映画祭で「ブンミおじさんの森」がタイ映画史上初の金獅子賞を受賞した。
今展の中心となるプロジェクト《Fireworks》は、漆黒の夜に鳴りわたる花火の断続的な音と光を通して、わたしたちの意識から追いやられ、深くに閉ざされた記憶の領域を照らし出す試み。脳の特定の細胞群に光をあてることで特定の記憶を呼び起こすことに成功した近年の実験結果にも言及しながら、記憶と光の関わりについて探求している。作家の出身地であるタイ東北地方の歴史、伝承や記録を参照しながら、作家がこれまでも試みてきた夢や眠りといった主題が変奏され、現在制作中の映画《王の墓》(Cemetery of King)へと引き継がれていく。
また本プロジェクト初作となる《Fireworks (Archives)》(2014年)は、タイとラオスの国境の町・ノンカイに あるサラ・ケオクー寺院で撮影。信者による労働奉仕と寄付により建立したこの彫刻庭園には、ヒンズー教徒と仏教を融合した数々の動物像が配され、開祖の思想を具象化している。沈黙してたたずむこれら奇態な群像は、人々の喧騒と陽気な祝祭を暗示する花火に照らされ、プリミティブに鳴り渡る砲音のなか不穏な均衡を生み出している。
【会期】9月11日(木)~10月4日(土)
【会場】SCAI THE BATHHOUSE(東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡) TEL 03-3821-1144
【開廊時間】12:00~18:00
【休廊】日・月曜・祝日
【料金】無料
【関連リンク】SCAI THE BATHHOUSE