「美術、建築、文学から、魅力に迫る」
冨田 章(東京ステーションギャラリー館長)
今年、開業100年を迎える東京駅は、人々の記憶にどのように残ってきたのか、すなわち、東京駅はどのように見られてきたのか。
そして、東京駅をとりまく環境はどう変わったのか、すなわち、東京駅は何を見て来たのか。本展のテーマは、つまるところこの二つの問いに集約される。
東京駅が開業した1914年は、世界史で言えば第一次世界大戦が勃発した年であり、日本では明治が終わり、大正の自由な空気が満ちようとしていた時期であった。それからの100年間は、世界にとっても日本にとっても、まさしく激動の時代となる。東京駅は、この中をかろうじて生き残り、その姿は人々の記憶に刻まれてきた。
東京駅はまず、絵葉書や東京名所の写真集や画集などに数限りなく登場し、名所双六や旅行双六などでも、振り出しのコマとして頻繁に使われている。それは、観光名所として、あるいは旅の出発点としての記憶であり、日本や東京を象徴するものとしての姿であったと言えようか。
画家や写真家たちは、東京駅を個性的な視点でとらえている。松本竣介や櫻田精一、石井鶴三、恩地孝四郎といった画家・版画家たち、あるいは石川光陽や師岡宏次など写真家たちの仕事は印象的だ。映像や新聞などを含む、こうした東京駅の図像は本展のみどころのひとつである。
また本展では、文学作品に登場した東京駅も紹介する。評論家の坪内祐三氏に、東京駅が登場する文学作品のアンソロジーを選定してもらった。島崎藤村、志賀直哉、川端康成らの文章の一節が、時代の空気を生き生きと伝えてくれることだろう。
一方で東京駅は何を見てきたのか。
本展では、東京駅を含む丸の内の変遷を、東京駅が開業した1914年、その50年後の1964年、そして2014年という三つの時代のジオラマとして展示する。皇居までほとんど建物のなかった開業当初から、モダニズムや擬古典様式のオフィスビルが建ち並ぶ1964年、そして高層ビルの林立する現在へと至るその変化は、日本における近代建築や都市計画の変遷の縮図であると言ってもよい。その中で、建て替えられることなく存在してきた東京駅は、日本近代史の証人であったとも言えるのである。
松岡壽の描いた辰野金吾の肖像画や、東京駅の保存・復原工事の過程で発見された創建当時の装飾部材など、初公開となる展示品も含め、ひとつの駅舎をテーマとした展覧会でありながら、予想した以上に豊かな世界を提示できたと思う。
【会期】12月13日(土)~2015年3月1日(日)
【会場】東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1) TEL 03-3212-2485
【休館】月曜(1月12日を除く)、12月29日(月)~1月1日(木・祝)、1月13日(火)
【開館】10:00~18:00(金曜(1月2日を除く)は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】一般900円 高校・大学生700円 中学生以下無料
【関連リンク】東京ステーションギャラリー
■記念シンポジウム 東京駅の保存・復原と日本近代建築の100年
【日時】12月21日(日) 14:00~17:00(開場13:30)
【会場】工学院大学新宿校舎 A0652教室
【パネリスト】 田原幸夫(ジェイアール東日本建築設計事務所、京都工芸繊維大学特任教授)、松隈洋(京都工芸繊維大学教授)、鰺坂徹(鹿児島大学教授)、広田直行(日本大学教授)
【モデレーター】大内田史郎(工学院大学准教授)
【参加費】無料(先着170名)
【共催=工学院大学建築学部】
■連動企画「東京駅開業100周年記念展 100年のプロローグ」
【会期】11月22日(土)~2015年2月16日(月)
【会場】鉄道博物館(さいたま市大宮区大成町3-47) TEL 048-651-0088
【関連リンク】鉄道博物館
■連動企画「東京駅開業とその時代」
【会期】12月9日(火)~2015年3月22日(日)
【会場】旧新橋停車場 鉄道歴史展示室(東京都港区東新橋1-5-3) TEL 03-3572-1872
【関連リンク】旧新橋停車場 鉄道歴史展示室