【横浜美術館】 蔡國強展:帰去来

2015年08月19日 17:15 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

 

「人生四季:夏」2015年 火薬、カンヴァス 259×648㎝ 作家蔵

「人生四季:夏」2015年 火薬、カンヴァス 259×648㎝ 作家蔵

 

 

人間としての原点を巡る旅

逢坂恵理子(横浜美術館館長)

 

日本は蔡國強にとってアーティストとしての活動を醸成した原点といえる。1980年代末から90年代前半、火薬に代表される中国の文化や思想を援用した作品で、蔡は日本の現代美術界の寵児となった。拠点をニューヨークに移した1995年以降、「火薬×爆発×花火×アート」が蔡の代名詞となるほど、世界各地での彼のめざましい活躍は枚挙にいとまがない。

 

渡米後20年を迎えた今年、横浜美術館で開催中の個展のタイトルは帰去来(ききょらい)である。様々な境界を往来するアーティストが、日本に再び帰り創作の原点を探る―本展にはそうした思いもこめられている。久々の日本での個展に際し、私自身は、日本や横浜の歴史、文化を意識した新作と、日本ではまだ展示していない旧作によって、蔡自身の新たな側面とメッセージが示されることを期待した。

 

 

横浜美術館で行われた火薬絵画「夜桜」(2015年、火薬、和紙、作家蔵)の爆破制作風景 Photo by KAMIISAKA Hajime

横浜美術館で行われた火薬絵画「夜桜」(2015年、火薬、和紙、作家蔵)の爆破制作風景
Photo by KAMIISAKA Hajime

 

 

6月半ば、横浜美術館のグランドギャラリーと呼ばれる大きな吹き抜け空間は、8日間にわたり蔡國強の火薬爆発による作品制作の現場と化した。下絵と型紙制作、火薬の散布、煙を封じ込めるための紙や重石の配置、そして導火線に点火するまでの準備は周到かつ大胆である。わずか2~3秒の爆発後、蔡の指示で火の粉が消され、覆いの紙が取り外され、爆発痕が描く絵が現れた瞬間、緊張感は驚きに代わる。

 

30年にわたり火薬という素材に取り組み、作品を作り続けてきた蔡は、学生や市民ボランティアとともに日本画から着想した過去最大の作品《夜桜》[8×24m]を完成させた。また、今までにない多彩な色を施した《人生四季》は、江戸時代の浮世絵師月岡雪鼎の肉筆春画《四季画巻》に触発されたものだ。いずれも蔡が挑んだ新しい火薬絵画として特筆に値する。

 

本展のもうひとつの魅力は、99匹の狼のレプリカによる圧倒的なインスタレーション《壁撞き》(2006)である。ベルリンの壁を想定した約3メートルの透明ガラスの壁に、狼が群れをなして激突する様は、「目に見える壁は乗り越えやすいが、目に見えない壁は乗り越えることが難しい」人間社会の反映でもある。蔡によれば、数字の99は、「持続性」や「完結をはっきり示すことなく先頭を進む」ことを意味するそうだが、対立や混迷を深める今日、狼の姿がもたらす私たちへのメッセージは深い。

 

人間と自然との関わり、循環を示す本展は、蔡の創作と人間としての原点を巡る旅である。

 

本展のドキュメント映像や、2015年までの主要作品を編集した映像も、蔡のたぐいまれな創作の軌跡を知る上で人々を惹きつけるであろう。

 

 

「壁撞き」2006年 99体のオオカミのレプリカ、ガラス壁 ドイツ銀行蔵 The Deutsche Bank Collection Photo by KAMIYAMA Yosuke

「壁撞き」2006年 99体のオオカミのレプリカ、ガラス壁
ドイツ銀行蔵 The Deutsche Bank Collection Photo by KAMIYAMA Yosuke

 

 

【会期】 2015年7月11日(土)~10月18日(日)

【会場】 横浜美術館(神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)TEL045-221-0300

【休館】 木曜

【開館】 10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)、9月16日(水)・18日(金)は20:00まで

【料金】 一般1500円 大学・高校生900円 中学生600円 小学生以下無料

【関連リンク】 横浜美術館

 

 

「夜桜」2015年 火薬、和紙 800×2400cm 作家蔵 Photo by KAMIYAMA Yosuke

「夜桜」2015年 火薬、和紙 800×2400cm 作家蔵 Photo by KAMIYAMA Yosuke

 

 

「新美術新聞」2015年8月21日号(第1384号)1面より

 

 


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