故郷での個展に寄せて—中島千波
今年の5月、日本橋三越で古希と銘打って展覧会を催した。ほんの一部だが、独立峰をテーマにと長年取り組んでいる老樹老木の桜を中心に屏風で挑戦してみた。不思議なことに、この歳になると同じ日本画家であった父親との比較を考えてしまう。70歳の時分どの程度の絵を描いていたのだろうと、たとえ父親でないとしても気になることはあるだろう。
おぶせミュージアム・中島千波館では、毎年10月に全館を使用して展示しているが、今年は9月18日始まりとなった。これらの企画は妻である学芸顧問が中心になって内容を検討している。今回は10歳頃に描いた父親の寝顔から始まり、藝大時代の自画像の連作、課題制作や卒業制作、院展入選作、全国公立美術館所蔵作品から現在制作中である人物のテーマ作品、桜の屏風、御舟と若冲の再現画等の花鳥画、人物のクロッキー、桜や山の写生等といった私の制作における思考方法や描写技法等、まるで私を素裸にしたような展示となっている。
妻は42年間連れ添うなかで夫というよりも、学芸員としての立場から如何に中島千波という絵描きを解剖することの面白さを、一般の鑑賞者に見てもらうか考えているようである。その一つに5、6年ごとに出版している「図鑑」という名称で作っているレゾネ・カタログとしての画集がある。この度の展示はそういった主旨が内在した展覧会ではないだろうか。乞うご期待といったところである。
(日本画家・Artist Group-風-メンバー)
画家の新境地ともいえる作品に、是非注目を―宮下真美
花鳥画、人物画、挿絵などさまざまなジャンルの作品制作を行う小布施出身の日本画家、中島千波(1945~)。ふるさと小布施町で毎年秋にテーマを決めて開催している自身の展覧会だが、今年はタイトルを「古希記念 中島千波展-桜、人物、独立峰を描く-」とし、古希を迎えますます精力的に活動する中島千波の初期の作品から最新作までを、ジャンルごとに紹介する。
「桜の画家」と呼ばれ、現在まで数々の桜の屏風作品を残し、それらの作品を目当てにくるお客様も多い。むしろそのイメージがつきまといすぎて、桜以外の作品についての関心が薄いといえるかもしれない。しかし画家にとって桜の作品はほんの一部であり、ライフワークとして描く人物画のほか、風景画や挿絵など多岐にわたっていて、いわば何でも描ける非常に器用な作家であるのだ。
本展出品作品の中でも、最新作である「峻嶺マッターホルン」や「エアーズロック」など、独立峰を描いた屏風作品は圧巻である。特にマッターホルンの作品でいえば、標高4478メートルの山を7年前に現地で写生し、ここでようやく屏風作品として完成させた思い入れのある作品である。背景の爽やかな空の色、白い雲、山の荘厳さが見事なコントラストを生みだしている。本人によると「山の方はこれまであまり得意ではないので、むしろ逆に挑んでみたい」と語っている。画家の新境地ともいえる作品に、是非注目したい。
(おぶせミュージアム・中島千波館 学芸員)
【会期】2015年9月18日(金)~12月1日(火)
【会場】おぶせミュージアム・中島千波館(長野県上高井郡小布施町大字小布施595)
【TEL】026-247-6111
【休館】無休
【料金】一般500円 高校生250円 中学生以下無料
【関連リンク】おぶせミュージアム・中島千波館
■ワークショップ
【日時】10月3日(土) 10:00〜12:00
【会場】小布施中学校美術室
【講師】中島千波