東京・お茶の水に今年9月にオープンしたアートギャラリー884にて「―風と共に去りぬ―川下成海彫刻展」が開催される。
1936年に東京で生まれ、2001年に惜しまれつつもこの世を去った川下成海は、主にイタリアで立体作家として活動した。1967年に東京芸術大学大学院を修了後、1969年にイタリア政府給費留学生としてイタリアに渡り、以後30年余りミラノの地で過ごした。日本での活動は、1965年から69年にかけて新制作展への出品(68年新作家賞)や、1984年の現代彫刻センターでの個展など数えるほどしかなく、今回の展示は、没後の2005年にシンワアートミュージアムにて行われた「川下成海彫刻展 没後4年――故人を偲んで」以来のものである。
川下とイタリアで生活し、妻として公私共に支え続けた吉川具仁子氏によると生前の川下は「定着しがたいものを3次元の世界で昇華する」ことを目指していたという。東京都中野区にある「川下成海彫刻サロン」にて大切に飾られている作品を観ると、風や水、雲や夜など捉えがたい対象をモティーフとしていることがわかる。今回の展示の表題にもなっている≪風と共に去りぬ≫(1982年)に関しても、柱に絡みつく布を作り上げることでそこに吹いている風の強さを推しはかることができる。
また吉川氏は、川下が1984年の現代彫刻センターでの個展後、10年間ほど作品を発表するのを控えていたと述懐する。そこに川下の芸術家としての信念を垣間見たという。現代彫刻センターでは展示作品の三分の二が売れ、ともすればヒット作品のレプリカを発表し続けることも可能であったはずだ。しかし川下は、作品をパターン化しない芸術家としての潔癖な態度を示し続け、それが結果として10年間の沈黙へと結びついたのであった。ただその沈黙の10年の中でも、川下本人はいたって飄々としていたようで、例えば≪トンボ≫(1990年代)に代表されるように、コーヒー缶の裏の模様を波紋に見立て、そこにトンボの尾をつけるといったユーモアを見せている。無頼の精神を持ちつつも、まわりを和ませるようなユーモアを作品のなかで表出しつづけていたのだ。
時代の潮流とは距離を置き、常に作家としてのオリジナリティを求め続けた川下成海。その貴重な作品の数々を味わいたい。
【会期】2015年10月10日(土)~10月24日(土)
【会場】アートギャラリー884(東京都文京区本郷3-4-3 ヒルズ884 お茶の水ビル1F)
【TEL】03-5615-8843
【時間】11:00~19:00(最終日は17:00まで)
【休廊】10月19日(月)
【関連リンク】アートギャラリー884 株式会社レ・プレイアディ