等身大視線で万葉歌と向かい合う
澤田尚久(奈良県立万葉文化館企画普及課課長)
奈良県立万葉文化館は、平成13年9月15日に開館し、昨年10周年を迎えた。10年(第一期)の区切りとして、開館当初より館の運営に携わってきた財団法人奈良県万葉文化振興財団を、平成24年3月末日をもって解散し、平成24年4月より、奈良県の直営館として設立趣旨の原点に立ち戻り、「万葉のふるさと」、館内に日本で最古の銅銭「富本銭」などの製造工房であった「飛鳥池工房遺跡」を有するなどの特徴を活かした「文学」「美術」「歴史」の総合文化拠点施設として情報発信の強化、より親しまれる施設、独自の魅力の確立を目指し、第二期目のスタートを切った。
今回の特別展では、第一期の集大成として館が所蔵する万葉日本画、飛鳥池工房関連遺物に併せて、大岡信ことば館(静岡県三島市)の協力により『万葉集』の歌自体を立体として制作「万葉歌の林」を表現する。これは、設立当初より唱えている『万葉集』を単なる文献としてとらえるのではなく、複合的な古代の証言として、『万葉集』をとりまく政治、国際文化、信仰、生活、芸術、言語そして当時の自然の生態といったものを『万葉集』の成立条件と考え、総合的に『万葉集』をとらえる「万葉古代学」の表現することを試みるものである。
テーマである「よみがえる飛鳥の技、万葉美の競演」は、壬申の乱後、即位した天武天皇が目指した律令国家へ変革しようと大陸の技術の習得に取り組んだであろう「飛鳥工房遺跡からの富本銭、金銀製品、銅製品、ガラス製品、漆器などの製造過程の遺物」を「飛鳥の技」とし、万葉日本画、万葉歌の立体展示を通じて、その時代に詠まれた『万葉集』の作者の心情を「万葉美」と位置づけて、そのコラボレーションにより、目標に向かって邁進する古代人の情熱を表現しようとするものである。
その中で、今回初めて挑戦する万葉歌を平面の文字から、立体の文字に置き換え展示することで、等身大視線で万葉歌と向かい合うことにより、その文字の後ろにある作者の心情などを感じ取れるのではと期待するものである。
【会期】 2012年9月29日(土)~11月27日(火)
【会場】 奈良県立万葉文化館日本画展示室(奈良県高市郡明日香村飛鳥10)
☎0744-54-1850
【休館】 会期中無休
【開館時間】 10:00~17:30(入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1000円 大学・高校500円 中学・小学生300円
【関連リンク】 奈良県立万葉文化館公式ホームページ
特別講演会「古代の物語の不思議と魅了」
11月18日(日)14:00~
【講師】 宮本亜門(演出家・神奈川芸術劇場(KAAT)芸術監督)、井上さやか(奈良県立万葉文化館主任研究員)
【料金】 無料
※ 参加はハガキで以下まで申込。ハガキ1枚につき、1名まで。
〒634-0103 奈良県高市郡明日香村飛鳥10 奈良県立万葉文化館 特別講演係
「新美術新聞」2012年9月21日号(第1291号)1面より