【東京】 維新の洋画家 川村清雄

2012年10月26日 18:22 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

 

「建国」  昭和4年(1929) 絹本油彩 147.0×72.8cm オルセー美術館蔵  © RMN (Musée d'Orsay) / Jean Schormans / distributed by AMF

油彩画の世界に江戸文化を融合

 

落合則子(江戸東京博物館学芸員)

 

川村清雄 ― 長らく忘れられていたが、近年とみに評価が高まっている幻の洋画家である。本展では、明治美術の知られざる巨匠・川村清雄の画業とその生涯を紹介する。

 

川村清雄は、幕末の江戸に幕臣の子として生まれ育ち、明治維新で江戸を逐われた徳川宗家に仕えて静岡に移住した。明治4年(1871)徳川家派遣留学生としてアメリカへ渡航し、その後もパリ・ヴェネツィアへと移り、10年余りを欧州に学んだ。最も早い時期に海外で本格的な油彩画技法を学んだ日本人の一人である。帰国後の清雄は、明治美術会の設立に参加しながらも、やがて画壇から遠ざかり独自の道を歩んだ。

 

彼が築いた油彩画の特徴は、西洋に由来する油彩画の世界に江戸文化を融合させた独特な画風である。西洋の油彩画が培ってきた重厚で堅牢な色面と、日本画を思わせる軽快で瑞々しい線との融合は、他の画家の追随を許さない見事さだ。その芸術精神の根底には、かつて江戸文化の担い手であった幕臣としての誇りがあった。近代日本が脱ぎ捨ててしまった独自の芸術世界とその感性を、清雄は生涯をかけて世に問い続けた。その生き方と作品はまさに「日本美術のアイデンティティーとは何か」という根本的な問いそのものであり、その問いは現代の私たちにも投げかけられている。

 

「江戸城明渡の帰途(勝海舟江戸開城図)」 明治18年(1885) カンバス、油彩  119.8×61.4cm 東京都江戸東京博物館蔵 

本展では、川村清雄の作品の魅力を、主要作を中心に、初公開作品を含む約100点の絵画を集めて最大規模で展観する。とくに注目されるのは、フランスへ渡った晩年の傑作《建国》が初めて日本に里帰りすることだ。昭和4年(1929)にパリ・リュクサンブール美術館に納められたこの作品は、《振天府》(聖徳記念絵画館蔵、本展では下絵〔明治神宮蔵を展示〕)とならび清雄の画業の集大成となった作品だが、日仏ともにこれまで公開されることがなかった。本展はこの秘蔵の傑作を目にすることができるまたとない機会である。さらに、清雄が絵画の理想としたヴェネツィア派最後の巨匠ティエポロの名画が、ヴェネツィアから来日するのも見どころの一つであろう。

 

さらに本展では、江戸東京博物館等が所蔵する豊富な歴史資料を合わせて展示し、幕末から明治・大正・昭和へと続く激動の近代史を生きた清雄の人生を、彼を支えた徳川家達や勝海舟など人物交流のエピソードを織り交ぜて立体的に描き出す。美術愛好家のみならず、歴史ファンにもお楽しみいただける、これまでの美術展にはなかった江戸博ならではのユニークな展覧会である。

 

「振天府」下絵 昭和6年(1931)以前 カンバス、油彩  71.2×60.7cm 明治神宮蔵

なお本展はこの後、静岡県立美術館へ巡回の予定である(2013年2月9日~3月27日)。さらに本展とほぼ期を同じくして、目黒区美術館では「もうひとつの川村清雄」展が開かれる(10月20日~12月16日)。両展を合わせて、清雄の芸術世界をご堪能いただきたい。

 

【会期】 2012年10月8日(月・祝)~12月2日(日)

【会場】 江戸東京博物館(東京都墨田区横綱1-4-1)

☎03-3626-9974

【休館】 月曜 【開館時間】 9:30~17:30(土曜のみ19:30まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般1300円 大学生・専門学校生1040円 中学生(都外)・高校生・65歳以上650円

【巡回】 2013年2月9日(土)~3月27日(水)静岡県立美術館

【関連リンク】 江戸東京博物館 公式ホームページ

 

「新美術新聞」2012年10月11日号(第1293号)1面より

 

 


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