軽やかでしなやかな空間
北谷正雄(豊田市美術館学芸担当係長)
日本の現代彫刻を代表する作家の一人、青木野枝(1958年生まれ)。重くて硬い素材である鉄を、溶断、溶接という手作業を重ねることで、軽やかで、しなやかなものへと変身させ、かたち作られた作品は、戦後彫刻の流れのなかで独自の位置を占めています。
今回、豊田市美術館と名古屋市美術館とが連携し、かつてない規模で青木野枝の創作世界に迫り、自然に親和しようとする作家の営みを、彫刻を中心としながら版画やコラージュなどを交えて紹介します。
青木の作品における鉄は、工業製品としての鉄材と比べ、その表情は全く異なります。大きな板として視界を覆うばかりの威圧感を漂わせていた鉄を細かに分断し、それらを組み立てた作品は、観る人の視線を受け止めながらも軽くいなし、そして透過させます。形態にしても、自然界の何かを連想させるのですが、けして具象的なものを表しているわけではなく、また、抽象的といっても幾何学的な要素で成り立っているのではありません。
青木が作り出す彫刻には、重量感、安定性といったイメージはないのです。それは、伝統的に彫刻の属性とされてきた、形態に備わる量塊性や、台座あるいは大地から立ち上がる堅牢性といったものからも自由になっていると言えるでしょう。
水や微小な粒子などが満ちる世界へと向けるまなざし。それが、青木の作品制作の基本的な態度です。世界はどのように成り立っているのか、私たちはその世界とどのようにかかわりを持てばよいのかという問いかけであり、またその答えもまなざしの向こう側に隠されているのです。それを見つけることが青木にとっての制作であると言えるでしょう。
青木が作り出す彫刻は、常に世界の新しい姿を見せてくれます。それは溶断され、バリも荒々しく残る鉄の棒状の円や直線から成り立っているのですが、円と直線の間には無数のアールを持つ曲線が存在するように、その彫刻は青木のまなざしが向かうその場ごとに異なる姿をまとっています。
青木の彫刻は物質として存在しますが、青木が作っているのは物質というよりも空間であると言えるでしょう。目の前に広がる空間を見つめ、そこから余分なものを取り除いて、自分にとってのまだ見ぬ世界を露わにする。それは、隠されたかたちが現れるのを待つようなものです。青木は空間のなかに自分の見たい姿を見つめているのです。
本展覧会では、豊田市美術館と名古屋市美術館のそれぞれに、作家本人がさまざまな彫刻を立ち上がらせます。展示室は作品と空間とがしなやかに溶け合わされた場となることでしょう。観る人は、そこに奥行きのある余白を感じ、いつしか青木の彫刻空間に入り込んでいるはずです。
豊田市美術館
【会期】 2012年10月13日(土)~12月24日(月・祝)
【会場】 豊田市美術館(愛知県豊田市小坂本町8-5-1)☎0565-34-6610
【休館】 月曜(ただし12月24日は開館)
【開館時間】 10:00~17:30(入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1100円 高校・大学生800円 中学生以下無料
【関連リンク】 豊田市美術館 公式ホームページ
名古屋市美術館
【会期】 2012年10月20日(土)~12月16日(日)
【会場】 名古屋市美術館(愛知県名古屋市中区栄2-17-25)☎052-212-0001
【休館】 月曜
【開館時間】 9・30~17:00(祝日をのぞく金曜日は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
【料金】 一般1100円 高校・大学生800円 中学生以下無料
【関連リンク】 名古屋市美術館 公式ホームページ
※2館セット券あり
【料金】 一般1800円 高校・大学生1300円 中学生以下無料
対談 中原浩大(美術家)×青木野枝
12月2日(日) 14:00~15:30
【会場】 豊田市美術館 1階講堂
【料金】 要観覧券
※定員172名。当日の正午から整理券を配布
あいちトリエンナーレ2013・トリエンナーレスクール
「原っぱと鉄の浮遊する粒子」
青木野枝×青木淳(建築家)×五十嵐太郎(建築史家、あいちトリエンナーレ2013芸術監督)
11月9日(金) 18:00~19:30
【会場】 名古屋市美術館 2階講堂
【料金】 無料
※定員180名。
〈招待券プレゼント〉
同展の2会場セット招待券を、5組10名様にプレゼントいたします。
メールのタイトルに「青木野枝展 招待券プレゼント」とご記入の上、①郵便番号②住所③氏名④年齢⑤職業⑥当サイトへのご意見 を以下のメールアドレスまでお送りください。
締切 11月15日必着
※応募多数の際は抽選とさせていただきます。なお当選者の発表は、発送をもってかえさせていただきます。
「新美術新聞」2012年10月21日号(第1294号)2面より